収録が一段落し、休憩時間になった私は用意された楽屋に戻ってテレビをつけた。
この時間帯は私の好きなクイズ番組がやっていた筈。


“HE★VENSの宇宙レベルでキュートなアイドル、帝ナギだよ”


お目当てのチャンネルに変えた瞬間画面に写し出された人物に思わずリモコンの電源ボタンを再度押してしまった。
いや、うん、休憩時間まで可愛くない後輩の顔は見たくない。
なんで私の好きなクイズ番組に出てんだよ!?
これじゃあ録画してあるけど、イライラして見れないじゃないか。

「ひっど〜い。なんで消しちゃうかな〜」

『っ!?』

突然にょきっと私の肩に誰かの顎が乗っかった。
……声だけでも解る。だって今さっきテレビで聞いた声だ。
その人物が私の背後にいるんですよ……。

『……ナギ、……どうして此処にいるわけ?ってか顎乗っけるな!!そしてテレビをつけるな!!』

えいっとリモコンのボタンを押したこいつのせいで再び画面が映る。
ちょうど背後のこいつが難問に正解したところだ。
解答欄には見たこともない数式が並んでいて、全然理解出来ない。こいつ、ほんとに中学生かよ。
ああ、そういえば無駄に頭が良かったっけ。無駄に。

「え〜いいじゃ〜ん。ぼくの活躍をちゃんと見てよ、名前せんぱ〜い」

ほら、正解してるでしょと画面に映っている自分を指差す。
相変わらず可愛いなんて自画自賛してるこいつに思わず溜め息が出てしまう。

帝ナギ。
彼は絶賛ブレイク中の三人組新人アイドルグループ、HE★VENSの1人。
その可愛い容姿を最大限に生かしてファンを魅了しているのだ。
HE★VENSは私と同じレイジング事務所に所属しているので、必然的に彼は私の後輩という事になる。
ファンの皆には愛くるしくて、天使みたいだと騒がれているが、性格は全く正反対だ。


天使?違う違う。
堕天使の間違いだ。
彼は悪魔だよ悪魔。
小悪魔系アイドルってやつ?


「名前せんぱ〜い、聞いてる?」

ナギはこてんと絶妙な角度で可愛く首を傾けて横から私の顔を覗く。
確かに可愛いかもしれないが、それは無自覚な子がやるから可愛いのだ。
しかし、自分の可愛さを売りにしているこいつは無自覚にではなく、意図的にその仕草をしている。
だからこそタチが悪い。
自分がどのような仕草をすれば可愛く見せられるのかが計算尽くされてるのだから。
ほんと、ずる賢いクソガキだ。

『…………』

「名前せんぱいってば〜」

『だあぁーもうっ!暑苦しい!纏わり付くな!』

頭の中で悪態を吐いていて反応出来なかった私。
そんな私にあろうことか、首に手を回して抱き着いて来たこいつ。
……何故だ。何故こうも私に付き纏う?
好かれるような事をした覚えはない。
むしろ初対面の時に眉を寄せたくらいだ。
だってぶりっ子にしか見えなかったんだもん。
会う度に嫌な顔をしてたのに、頻繁に絡んでくる。正直ウザイ。


『……で?なんで私の楽屋にいるの?』

ナギを自分から引き剥がし、テレビの電源をもう一度切って本題に戻る。
強引に引き剥がしたからか、はたまたテレビを消したからか、ナギは頬を膨らませて怒っているみたいだ。
はいはい、そんな顔も可愛いデスネー……憎らしい程に。
別に褒めてない。これは嫌味だよ。

「名前せんぱいが近くの楽屋にいるって綺羅が言ってたから来ちゃった」

おのれ皇!
なんてことを口にしてるんだ!
いつもは喋らない癖に!!

「名前せんぱいはキュートなぼくに会いたかったでしょ?」

『全く。全然。決して。だって私、ナギ嫌いだもん』

きっぱりとそう告げたら、
ナギは傷付いた顔を見せて、うるうると瞳に涙を浮かべ始めた。
あれ、これは……もしや……本気で泣くパターン?

「っ!!……ぼくは名前せんぱい好きなのに……っ」

ついにナギの頬に涙が伝わる。
……まずい。これはちょっと言い過ぎたかも。
こいつはまだ13歳だ。年齢的にも年上な私は随分大人気が無い事をしてしまった。


『……ごめんナギ、ちょっと言い過ぎた』

「ううっ……じゃあ、ぼくのこと好き?」

『っ……まぁ、……嫌いじゃない』

「ほんと!!じゃあぼくのことが好きなんだよね!?」


……は?
……何言ってるの?
解釈可笑しくない?
私は嫌いではないとは言ったが、好きとは言ってない。


「良かったぁ〜これでぼくたちは両思いだよ!ってことで、ちゅーしていい?」

『はっ?え?……ちょっ!?』


待て待て待て、何で私はこいつに押し倒されてるわけ?
ニヤニヤと悪どい笑い方をしているナギ。
……オイ、さっきの涙はどうした。
嘘泣きか。またしても計算尽か。騙された。
帝ナギはこう言う奴だ。
先程の私の謝罪を返せ。

「……逃げないってことは、本当にしちゃうよ?」


『っ!?止めて!!』

近付いて来る顔に思わずぎゅっと目を瞑る。
すると直ぐに、ちゅっというリップ音と共に額に生暖かい感触がした。

……ん?額?

「や〜い、引っ掛かった!このぼくが口にすると思った?ばっかじゃない?ぼくの可愛い唇はそんなに安くないよ」

閉じていた目を開けたら、「期待させてごめんね〜?」と悪びれた様子もなく舌を出しているナギが目に入った。
ポカンと拍子抜けた顔をしていた私を見て、ケラケラと笑っている。

〜〜っ。
ムカつく。生意気。性格悪っ!!
誰だ、こいつを天使だとか言った奴!!
今の奴を見てみろ!あの黒々しい笑みを!!
ほんと可愛くないっ!
私はやっぱり帝ナギが嫌いだ!!




天使と書いて悪魔と呼ぶ
(あ、今度名前せんぱいが出演するドラマにぼくも出ることになったから)
《……勘弁してよ》

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