「田中。これを、もっていけ」

「……真田。」

真田が最後の最後に渡してくれたのは、
やっぱり真田の書でした。


またすぐ会えるから


「って、最後の最後にこれかーい!」
そういいつつも、
私は真田の書を広げた。

なになに…?

『不撓不屈』?

「ごめん、読めない」

「っぷ、先輩読めないんすかぁ〜?」

そういって、ニヤニヤ笑う赤也。
うっぜぇ。なんだよ、その笑い。

「じゃあ読んでみなさいよ」

「ジャッカル先輩、お願いします!」

「――って、俺かよ?!」

アハハ!と笑いが巻き起こる。
…で、結局赤也は読めないわけね。

「…『ふとうふくつ』。
 意味は、どんな困難に出会ってもけっして心がくじけないこと、という意味だ」


「………。
 なんか…最後の書は、めっちゃいい言葉じゃん」

胸にジーンと来た。

今まで真田に貰った書は、
『自画自賛』や『自由奔放』など、私の欠点をかいてくれたからね。

今ではいい思い出。うん。


「――…それと、これは私達からのプレゼントです」

そういって、柳生は――。
立海のジャージをくれた。


「え?私持ってるよ?」

「中を見てみんしゃい」

そういうと、仁王がジャージのチャックを開ける。
そこには――。


『常勝立海大★四天宝寺でも頑張れ!』
とでっかくかいてあった。

――じーん。
みんなぁ…っ。

「…みんな、
 やっぱり私のこと好k――花子?

「ひぃぃいい…!ごめん、嘘!嘘だから!」

最後の最後まで、
やっぱり幸村はお腹の中が真っ黒でした。



「……私、これ使うよ。
 四天宝寺いっても、寝巻きとして使うから」

「………花子」

そういって、目を細める幸村。
…これで、私もテニス部のマネージャーとおさらば、ってわけか。

バンダナの男の子の正体が気になるけど…。

ブン太の言ったとおり、
一目ぼれって恋に入らないのかもしれないし。


「……あのさ、花子」

「うん?」

四天宝寺のマネージャー決定したから。


…………。


ポカーン。
一同騒然。

いや、仁王はにやって笑ってるみたいだけど。
その他の一同ポカーン。

あ、柳が目かっぴらいてるじゃん。

『俺のデータが狂っただと…?!』

って顔にかいてあるんだけど。
案外、参謀も分かりやすいよね。何考えてるか。

「って、ちょっと待てゴルァァッァアアッ!
 そんな話し聞いてないよ?!」

「…ん?サプライズだよ。
 よかったね、花子。
 これで俺達とまた会えるよ」

そういって、ニッコリと微笑む幸村。

や ら れ た !

あー、もうやだよ。
っていうか、私の意思決定なしにマネージャー決定されてるのかよ。

何かもう…あきれをこして、
笑えてくる。


「……ふ、ふふ…。」

「お、おい。花子が末期症状だぞぃ。
 赤也、何とかしろよ」

「俺っすか――?!無理っすよ、ジャッカル先輩!」

「――って、やっぱり俺なのかよ!

そういって、罪のなすりつけあいをしてる3人。
…君達、私はもう違う学校のマネージャーになるんだぞ?
うん?

もうちょっとさ、

『俺達のマネージャーはあんただけだ!』とか
『他の学校のやつにあげねぇ!』とかさ。

そういう感動は見せてくれないわけね、分かったよ。



そんなこんなで、
少ししょぼくれていると――。

ブン太がやってきて言った。

「……これ、やる」

「………っ、ブン太ぁ…!」

そういって――。ブン太は手渡しでハートの形のネックレスをくれた。


箱にはいれてくれなかったんだね。

お前さ、俺に感謝しろよ。

――最後の最後まで、
こんなお別れの仕方だったけど、それが私達らしいと思った。

常勝立海、涙は流さない。

――…本当は、心細い。
私の居場所は、もう…立海じゃなくなる。



…変な感じ。

こんなに、一緒にいたのに。
たくさんの思い出が頭の中で流れてきた。


……仁王と柳生の入れ替わりには、
相当困ったなぁ。

もう仁王とかさ、柳生になりすまして
私のスカートめくってきたことあるんだよね。

それで、私本物の柳生の顔面をグーで殴っちゃったことあったよなあ。

あ、これ黒歴史だわ。

んでもって、真田の帽子で遊んでたら
なくしちゃったことあるんだよね。

こっぴどく怒られたなぁ。

幸村はあんな王子様スマイルしてるけど、
言ってることが全て酷かったなぁ。

毒吐き王子め。

ジャッカルは相変わらずいじられてるし、

柳は何でか知らないけど私のパンツの色言い当てるし。

赤也はパンツの色きいて興奮してるし、

ブン太はお菓子ばっか食べてたし。


あ、なんかろくな思い出しかよみがえってこない。

…でも、本当楽しかった。
立海大附属中学校。

…このまま、みんなと一緒にいたいけど
私は一足先に…お別れなんだよね。



「……みんな、ありがとう」

そういって、私はニッコリ微笑んだ。

――みんなと別れて、電車を待つ。
…この電車に乗って、大阪までいくんだ。

やだなあ。
神奈川にいたい。

もっと、みんなといたい。



「――おい、花子!」

あ、やばい。幻聴まで聞こえてきたかな。
涙でちゃいそう。

みんなといる時は大丈夫だけど、
こうやって1人になると――だめだなあ、私。


「って、聞けこのボス猿!」

誰がボス猿だ、ゴルァァッァアッ!

そうやって、後ろを振り向けば――。
…ブン太が、いた。


「……あんた、何してんの。」

「はぁ…はぁ、見送りに。」

「………汗だくじゃん」

「……タオルくれよ」

「ごめん、私のタオル鼻水めっちゃついてるんだよね。

じゃぁいらねぇわ。

そういって、Tシャツで汗をごしごしとふくブン太。


「……部活じゃないの?」

「……ん。」

「……真田に怒られるよ」

「……分かってる。」

「……グラウンド100周、って言われるよ」

あー、うるせぇ!今はそんなこといってる場合じゃねぇだろぃ!」

ブン太がそういった瞬間、
私の待っていた電車がやってきた――。

…せっかくきてくれたのに、
もうお別れかあ。

もっと、もっと話せればよかったんだけど…。

仕方ないよね。


「…ごめん、ブン太。本当にありが――」

"とう"と言おうとした時、
私はブン太の腕の中に抱かれていた。

ぎゅっと。強く、強く。


「……ぶん太…?」

「……会いに、行くから。
 お前も…会いに、こいよ」

「………っ、うん…」

それが――私の、立海での思い出。

…電車に乗ると、私はブン太に大きく手を振った。

って、あれ。
何か、ブン太…ビックリした顔してるよ。

って、なんでそんな切ない表情で笑うの?


「……あれ、何で…私泣いてるんだろう」


――ポタッ。

電車の床を濡らす、一粒の雫。

…涙は見せないって決めたのに。
私は弱かった。

――絶対、誰にも心配かけないでおこうって思ったのに。


「…ぶ…ん、た…」

…別れは唐突にくるもの。
だからこそ、心の整理が追いつかなかった。
…ねぇ、本当は不安で仕方ないよ。

私の存在がみんなから消えるんじゃないか、って。
薄れていくんじゃないか、って。

…とっても、とっても怖いんだ。



〜〜♪

携帯のバイブが、なった。

ぱかっと携帯を開くと、ブン太からだった。


送信者:ブン太
件名:泣くな、馬鹿
―――――――――
すぐにまた会えるから、
泣くなよ、ばか
―――――――――


私は顔をあげる。
すると、丁度電車が出発するところだった。

『が・ん・ば・れ』

そう口パクをしてきた、ブン太に――。
私は、涙を拭いて笑顔で返した。





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