――その夜、俺はこっそりと木を伝って自分の部屋に戻った。
…もう少ししたら、さすがに花子だって戻ってくるだろぃ。
しかし、その日花子が家に帰ってくることはなかった。
心に傷
ドンドンドンドンドンッ。
ガチャッ。
「花子がおらん!」
俺の部屋へ来たと思ったら――。
白石が、そう叫んだ。
…うぅ。朝っぱらからうるさい。
半ボケの頭で、白石を見る。
「……んぁ?」
「せやから、花子がおらんいうとんねん。」
「ふーん……って、っは?」
――思考回路がストップする。
ちょっと待てぃ。
…昨日の夜、
俺は花子を傷つけて――そのまま家へ帰ってきた。
けど、さすがに花子は家に戻ってくるって思ってた。
…なのに、家にいない?
っていうことは…昨日の夜から、帰ってきてない…?
「……丸井君。花子はどないしたん?」
「………わか、んねぇ。」
「せやかって、花子は丸井君追いかけてそのまま帰ってきてないんやで…?」
……マジかよ。
っていうか、何で帰ってきてねぇんだよ…!
頭がいろいろとごちゃごちゃしてくる。
…捜さなくちゃ。
いや、でも今日は2日目の練習試合。
――さぼったりしたら、
真田が怖い。
けれど、花子のほうが心配だ。
――…けど、見つけたとしても
花子になんて声をかければいい?
『悪かった』?『ごめんなさい』?
…俺は、どうすりゃいい。
ドンドンドンドンドンッ!
「ダメや、花子の携帯にいくらかけても電話繋がらん…っ」
「……っち、アイツ何やっとるんや…!ったく」
そういうと、白石が踵を返す。
「……お、おい。どこ行くんだよぃ」
「…花子を捜す。」
「っは…?捜すって、練習試合はどうすんだよ…!」
「練習試合なんていつでも出来るわ。
…それより、花子のがよっぽど心配やわ。」
そういって、眉間に皺をよせながら部屋をでていく白石。
そして一氏がちらっとこっちを見て――白石の後ろをついていった。
…白石も、もしかして……?
「……何で、なんだよ。
何で…」
なんでみんなして、花子のことが心配なんだよ。
なんで――。
何ともいえない感情が、
自分の中で蠢いた。