「え?あ…う、うん。」
「それと、その――…今日は、
マネージャーの仕事とか考えんでええから。
俺に言ってくれればなんでもやるし。」
「あ…あ、うん。」
何だろう。
怒っているのかと思えば、ユウジはいつにもなく優しい。
――変なユウジだなぁ。
分からない感情
「(…花子ド派手にやられとったなぁ。)」
花子が頭にナックルサーブを当てられた時――。
俺は慌てて花子を助けた。
っていっても、近くの白石に頼んで手当てしてもらってんけどな。
…それにしても、
財前のために体張って助けにいくなんて――…アホにもほどがあるやろ。
あんな剛速球を前に、
ぶつかりにいくなんてどうしようもないアホや。
ほんまアホや、あいつ。
「(せやけど…あの馬鹿正直な性格のおかげで、
喋れるんかもしれんなぁ。)」
俺が唯一喋れる女子で、
唯一接することのできる女子。
――最初は、いくら男みたいとはいえ
まともに話したりすることなんて出来なかった。
…せやけど、
アイツのあの明るい性格。
ポジティブな思考回路。
――なんもかんもが、
いつの間にか気に入ってしまっとった。
…面白いやつ。
「(嫌い…ではないんやよな。)」
ついつい目で追ってしまっている自分。
…アイツはアイツで人をひきつける魅力があれんなぁ。
なんて褒めたら、調子のりそうやから言わんけど。
『……んでいくもん…やろ。』
『けど、……誰…財前を……れた…?
…財前にはこんな…で怪我し…テニス…………ほし……じゃんか。」
『……アホ。』
あ、花子と白石の声や。
相変わらず喧嘩しよっとるんかなー…そう思い、保健室に入ろうとして、
思わず足を止めた。
――薬や包帯などが閉まっている棚のガラスに、
映っている光景。
…何で2人が抱きあっとるん?
そういう…関係やったん?
「(何や、そういう関係…なんか。)」
何故か物凄く複雑な感情になる。
「………花子、大丈夫か――って、あ…」
半開きになっていたドアを全開にしてあけると、
2人は抱き合っていなかった。
「(…俺の見たのは違った?
いや…でも。)」
「…あ、ユウジ。さっきはありがとね、蔵呼んでくれて」
「(…気のせい……やったんかな)」
本当は、
白石と抱き合っているか聞きたかったが
何故だか怖くて聞くことができなかった。
――怖い?
ん?
何やろ、この感情。
俺にはよくわからない感情。
…変な俺や。
何で…何でこんな、不安で仕方ないねんろ。
「…………なぁっ」
花子の腕をつかんで無言でぐいぐい引っ張って歩いた果て、
俺はクルリと振り返って花子に向かい合う。
…めっちゃビックリしとるやん。
「……もう二度と、あんな無茶はすんなや。」
そういうと――。
花子が何故だか嬉しそうな顔をした。
…あ、なんか
胸が痛いって思ってもうた…なんでやろ。
小春に聞いたほうがええんかなあ。