「初球からナックルサーブ…?!」

やばい、財前――!

「…よっと!」

間一髪でそれを返す財前。
…よ、よかった。私は腰を抜かすようにして、席に座った。

練習試合6


――今のところ、
2-1で財前が押している。

けれど、赤也はまだ全力を出していない。
にやついた顔からそれが伝わってきた。

…それに比べて、財前は少し息切れをしている。

この試合――どうなっちゃうんだろう?

「……辛い試合やな。」

「――あ、え!ユウジ!」

隣の席に座るユウジ。
やっべーやっべー!胸きゅんきゅんする!

…っていうか、小春がいないのに私のそばに来てくれるって珍しいなぁ。

女慣れしてきたのかなぁ。


「……ユウジ、なんだかんだで女慣れしてきたね。」

まるでタラシみたいな言い方やな。
 …女慣れ、やなくて、俺はただたんに――」

そういうと、ユウジは言葉を詰まらせる。

「…やっぱ、なんもないわ。」


言葉の続きが気になるような気もしたが、
あんまりしつこいと嫌われちゃうしね…!

ユウジに嫌われる=人生の終わりだからね、今の私には…!



「って、あ、ちょっと待って――!」

やばいぞやばいぞ――!
赤也の目が充血してきてる…!

周りをキョロキョロ見渡すが、
赤也を止めれるような人物は見事にどこにもいない!

幸村も真田もこういう時にいないんだから、もう…っ!


「ごめん、ちょっと行ってくる――」

そういって、私がベンチからたってコートへ向かおうとした時だった。


パシッ。

「…どこ、いくん?」

そういって、心配そうに私を見ているユウジ。
きゅんっ。

もう、ずっとユウジの隣にいたい。いたいよ。

けど、あの暴走赤也を止めないと財前に危険が――、がぁって!


ユウジと話している間に、
赤也が完全に悪魔化してるじゃん…!


「赤也――!」

「……あんた、潰すよ。」

そういって、赤也が放ったサーブは、
財前の頬をかすめて飛んでいく。

…財前の頬には一直線に赤い線が引かれた。

そこからじわりと血が滲み出る。



「……随分野蛮的なプレイスタイルやな。
 ええで。

 ――かかってこい。」

そういって、すっと構える財前。
って、何熱くなってるんだ財前!


「財前ー!馬鹿、逃げろ!」

「……っは?何でっすか?」

「何ででも!今すぐ、逃げて――!」


そんな言葉もむなしく、
試合を続行する二人。

…止めなきゃ。

って、ユウジが手を離してくれないんだが。



「ゆ…ユウジ?」

「…止めたら、あかん。
 座って見とき」

「だけど――!」

ガッ!

鈍い音とともに――。
財前が、ラケットを地面に落としていた。

そして、痛そうに左手首を抱えて座り込んでいる。



「……っち…!」

「――早くラケット持てっつーの。
 もたねぇなら、こっちから打つぜ…!」

そういって、赤也がサーブをする姿勢をとった。




――あの馬鹿…!



「――花子!」

ユウジが私を止める声を無視して、
私は1コートへ飛び込んだ。


……間に合って、財前!




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