「……いじめ?」


「いじめちゃいますけど」



いやいや、これあきらかイジメだよ。財前から『土曜日、2時に○○公園に来てください』っていうメールがきた。わけもわからず来てみると、彼の手には2本のラケットと黄色いテニスボール。


「……何。私にサンドバックになれと?」


「物分りええ先輩でよかった。まさにその通りですわ」


ふざけんなよゴルァ。私を殺す気か…!」


バリバリの初心者にやらすことじゃないだろ…!しかも私、テニスってしたことないし!見たことしかないし!現役バリバリの財前と一緒にされては困る。


「大丈夫大丈夫。きたボールをちょっと打ち返せばええだけですから」


「それが出来たら困らないんだけど」


「…まあ、多少は考慮するから大丈夫ですって」


そういって、めんどくさそうな財前が(何でお前がめんどくさそうにしてんだよ)私にラケットを渡し、すたすたとコートに入っていってしまう。それをぼーっと見ていると、「何ぼーっとしはっとんすか」と呆れられた。


「あわわ、ごめん!」


「…別にええけど。じゃあ、俺がサーブうつんで打ち返してください。せめてラリーくらいはできるようになってくださいよ」


「……無茶ぶりすぎるだろ」



財前がサーブをうつ構えになったので私も慌てて構えてみる。…構え、あってんのか?



「よっと!」


そういって財前がうったサーブは、とにかく速い。手加減も糞もないじゃないか。私の後ろをとんでいった球は、フェンスにぶつかって私の足元にコロコロと転がってきた。



「とれるわけないじゃんか!」


「初心者やから今はとれなくてもええんすよ」


そういう財前は、私に構える暇もあたえずに次のサーブを打ち込んだ。



「んぎゃ!」


「……可愛らしない悲鳴やわ」


「何をぉおおお?!」


「ほな、次いきますよ」


無視か。無視なのか。


そんなことを思っていると、さっきより威力のました球がやってきた。身振り手振りでなんとかラケットに当ててみようとすると、ボールはラケットの側面にあたりコート外へ飛んでいった。

…うわぁ。コート内には入らなかったけど、一応あてれたじゃん!地味に感動をしていると、向こうで財前が驚いたように目を見開いて「……嘘やろ」なんて呟いていた。馬鹿にしすぎじゃないか?そんなポカーンってされたら私ショックなんだが。



「……何、財前。私がボール返したことが悔しいんでしょ」


「っは。そういうのはコート内にいれてから言うべきですよ、試合やったら今の大ホームランかましたようなもんっすから」


「う…っ」


だって私初心者だもん!仕方ないじゃん!と心の中で反抗する。声に出して反抗したら、もっと棘のある言葉を言われかねないからね。私見た目のわりに心ピュアだからね。





「――じゃあ、次のサーブいきますよ」


そういって、財前がサーブの構えをとった――。











「……死ぬかと思った」


「あれくらいでぴーぴー言うてるなんて、体力つけたほうがええんとちゃいます?」


おま…あれから3時間も付き合わされたこっちの身にもなれよ。普段使わない体力つかったせいで、体ボロボロなんだけど。



「…財前はよく体力もつね」


「花子さんがなさすぎるだけやろ」


「っむ。どういうことだ」


ぎゃーすかぴーすか騒いでいるうちに、日は暮れて少し暗くなってきた。携帯を見ると、お母さんから着信がきてた。…そろそろ帰らないと怒られるなあ。




「ごめん、財前。私そろそろ帰らなきゃ」


「……ん。じゃあ、送りますわ」


「あ、ありがと…」




えぇ、めんどくさがりの財前が送ってくれんの…?そんなことを思いながら、公園をでてしばらく他愛もない会話をして歩いていた。学校のこと。家のこと。謙也のことだの、担任の先生の頭がハゲだのいろんなことを話した。


そんな会話も、私の家に近づくにつれてどんどん途切れていく。





「……花子さん」


きゅうに名前をよばれて、ビックリして財前のほうを見ると財前は不安そうな顔で私を見た。


「……俺は、このままでええんやろーか」


――その言葉で財前が何を言いたいかすぐに察することができた。次期部長候補の財前は、白石のようなカリスマ性が必要なのではないかと悩んでいるのではないだろうか。あくまでの私の憶測なんだけど。



「…財前」


「………3年が引退したら、って思うと、正直…不安っすわ」


そういう財前の顔がくもっていた。本気で悩んでるんだろーな、財前。白石みたいに部員を束ねることができるかどーか、心配なんだろう。



「何くよくよしてんの」


そういって、財前の頭をぽんっと叩いてあげれば、彼はビックリしたように私を見た。



「財前には財前なりのやりかたがあるでしょ」


「………」



「……白石がアンタを部長にしたい、って言ってるんだから間違いないよ」




そういってやると、財前は一瞬泣きそうな顔になってからぷいっと違う方向をむいてしまった。そして、小さい声で、「……先輩ら、ずっといてくれればええんに」と呟いたのが聞こえた。














「(ってことで、引退しても俺の練習に付き合ってくださいよ、花子さん?)」


「(………え?)」



―――――

イメージソング「キャッチボール/BUMP OF CHICKEN」




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