困ったものだ。
私は携帯とにらめっこをしたのち、諦めたようにうなだれた。…幸村から、何か知らないけど遊園地へいこうといわれた。本当は家でゲームしていたかったのだが、向こうは何やら遊園地の券を所持しているらしく、『いかないなら無駄金になるよね』なんて言うからには嫌でもいかなければならない。
「……はぁ」
幸村の隣に立つのがなんだか億劫だ。だって彼、キラキラしてるもん。私みたいな平々凡々な女が隣に立ってたら、外野に何いわれるか…。
「とりあえず、何か私のいいところとかないか聞いてみるか」
とりえ、みたいなものがあったらそれいかせばいいじゃん!ナイスアイディア、私。ちょっとでも幸村の隣に立ってもおかしくない女になりたいし。
「よし、知り合い全員にメールしてみるか」
かえってきたメールはたったの3通であったのである。
Do-Dai
『そのままが一番なのではないでしょうか』
『ふむ。とりえないところがとりえだろうな』
『大丈夫か?頭。』
それぞれ柳生、柳、ジャッカルからかえってきた返事なのだが、何だこの悲しい回答。まともな回答ないって…!どういうことだよ、しかも真田にメールかち無視されてるしよぉ。何かいろんな意味で泣きたいんだけど。
「(はぁ…明日早いし、とりあえず寝なきゃ)」
寝坊したら幸村に殺される…。っていうのは冗談で、きっと半殺しぐらいされるのではないだろうか。
なんだか不安だらけなんだけど。えーっと…格好は花柄のワンピースにヒールはいて、化粧はどうしようか。濃い目が好きなのかな?いや、でも薄いほうが男子ウケいいってきくし…いやでもあの幸村様だよ?他の男子と同じだと考えた時点でダメなのではないだろうか。うう…不安だらけだ。
「(全然眠れん…)」
「ぎゃああああ!寝坊した!」
がばっと起き上がって時計を見ると、待ち合わせの時間まで後1時間ある。頑張ればなんとかなる…かな!
いそいでワンピースに着替えると、私は洗面所へ向かった。鏡にうつった自分は酷く目の下にクマができていた。…ああ、もう!
カラコンをいれてマスカラをして、ファンデーションやらシャドーもろもろしていくのだが時間が気になって気が気ではない。
とにかく急がなければ、と思い髪の毛を大慌てでコテで巻く。あああ…何かぼわんってなっちゃった!いつもならうまくできるのに、こういう日に限って動揺しまくってんだけど……!
バスの時間も迫ってるし、仕方ないよね。こうなったらカンカン帽子でカバーしよう!そう思い、帽子をかぶってバッグをもってあわてて出かける。
――ぎりぎりバスの時間にまでは、間に合った。
間に合った、のだが。
「…携帯忘れた。」
泣きたい。
バスの時間に間に合ったのだから、一応遅刻はする恐れははないんだが、やっぱり携帯がないというのも不便だ。
「……うぅ、失敗続きだ」
何とか無事バスが到着し、お金を入れてバスから出ようとした瞬間だった。ヒールが階段にひっかかって、すってんころりん。バスの車掌さんがあわてたように「大丈夫ですか?!」ときいてきた。……大丈夫じゃないです。なんていえるわけもなく、適当に相槌をうってその場をしのいだ。本当、不運続きだ。
……これは過去最高の黒歴史ではないだろうか。膝を見てみると、すりむいて血がでていた。髪の毛はくしゃくしゃになってるし、こけた拍子にどうやらヒールが折れてしまったらしい。……って、嘘ぉおおおおん!ヒールないと一番ダメじゃん!どうすんの?!ああ、こういう時幸村に連絡――携帯家に忘れたんだった。
私は肩をおろしながら、片手にヒールをもってとぼとぼと歩く。…素足で歩くのって、何気に目立ってるよね。ああ、何て不運続きなんだろう。
目の前の視界がちょっと霞んできた。涙がでそうだ。そう思ったときに、頭上から「花子!」なんて声がしたから慌てて上をむくと、幸村がいた。
「あ、幸村――」
「…携帯にメールしてみても返事こないから、慌ててきてみたんだけど。どうしたの、その格好」
「バス降りようとしたらこけて、こうなったの」
そういうと、幸村は小さくため息をついてから、「足みせなよ」といった。
……あぁ、もう恥ずかしすぎて死んでしまいたい。
「擦り傷だらけだし…しかも、化粧もよれよれになってんじゃん」
「…ごめんね、幸村」
「謝らなくてもいいよ。……って、何泣いてんの」
「うん……何かよくわからない罪悪感がわいてね」
「……まったく、バカだよ、花子は」
そういうと、幸村は私の頭にそっと手を置いて優しくなでた。そして私の涙をそっとすくってから、「頑張って化粧してる花子もいいけどさ、いつもの花子でもよかった」と呟いた。
「ゆ、幸村ぁぁあああああああ!」
「ちょ…抱きつくなよ。調子乗るなよ?」
「はい、すみませんでした」
やっぱり何だかんだで幸村は怖かったです。
―――――
イメージソング「Do-Dai/高槻やよい、双海亜美、星井美希」