今朝、変な夢を見た。
自分でも何でこんな夢を見たのかとかどういう妄想力つけてるんだとか、いろいろと思ったことはあったのだが、ただひとつこれほどまでに花子さんに信頼をよせたのは初めてだ。
…というのも、その夢というのがセミやらコオロギやら、とにかくいろんな昆虫が群れになって追いかけてくるというものだった。思い出しただけでも気色悪い。
必死で逃げ回ってる俺をかくまうようにでてきた花子さんは、「私に任せなさい!」とか言ってどこから用意したのやら、虫を駆除するためのスプレーを取り出すと噴射して全部倒してしまった。そしてニッコリと笑って、「大丈夫だった?」なんていうもんだから、いくら普段花子さんのことを邪魔だなーと思っている俺でも本気で花子さんに助けられたと思った。ただし、夢の中でだけど。
「(……あの夢は、何だったのだろうか)」
こんな馬鹿らしい夢…鳳に言ったら笑うだろうか。
メランコリック
「えぇ?何だよその夢…日吉、それって恋じゃないの?」
鳳にいったら、案の定鳳は笑った。ひとつ予想してなかったのは、『恋』と言われたことだった。
「っは…?誰が、あんな人に恋なんか」
「夢って、相思相愛だと見るらしいよ」
「………」
「嘘、今俺が適当に考えただけ」
そういって、俺を見てぷぷっと笑ってるこの大型犬がウザイ。…こんなにうざい鳳もなかなか珍しい。
「何だ。俺を茶化したいだけだろ」
「違うよ。俺は日吉の恋を応援してるだけだって」
「だから、違うっていってるだろ」
「じゃあ、何で花子さんにだけぶっきらぼうな態度をとったり、冷たい言葉を発せたりするんだよ」
「それは目障りだからだろ」
「……はぁ。違うだろ、日吉。そんな態度をとりながらも、花子さんとコミュニケーションをとろうとしてるお前を見てみると、何だか俺は歯がゆいよ」
「………とろうとなんかしていない」
「素直になることも大切だと思うけどな」
素直になること。…俺は、自分の気持ちを隠さずにいるタイプだと思っていたのだが。これが本当に鳳がいう恋というやつなのだろうか?…何だか、胸がもやもやしている。花子さんのことで悩んでいる自分。……何だかアホらしい、そうおもい適当に机の中にあった数学のワークに取り組んでみたが全然集中できない。
あんな夢、見るんじゃなかった。
「日吉ー!」
「………幻聴か」
「ねえ」
「………はぁ」
「ねぇ、ねぇねぇ」
「………」
「ねぇってば!」
そういって背中を強く押されて我にかえる。…これは、本物の花子さんだ。
「…何ですか」
「暇だから遊びにきたのだよ」
「帰ってください」
なんだよ日吉は冷たいなー、そういってへらへら笑っている花子さんを見て鳳の『素直になることも大切だと思うけどな』という言葉を思い出した。…アイツの言葉通りに動く、というのもなんだか癪にさわるのだが、素直になることで自分の中にあるもやもやがはれるならそれもいいのかもしれない。
「あの、」
「ん?」
「……やっぱり、ここにいればいいんじゃないんですか」
自分でもやってしまった、と思ってしまった。もっと素直な言葉があったじゃないか。何でこう、ぶっきらぼうな言葉しかでてこないんだ。花子さんの顔がまともに見れない。自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。…もしかして、本当に本当に、恋なのかもしれない。
「……日吉」
「………、」
「最近便秘なの?大丈夫?私、鞄の中に胃薬とか腹痛薬とかあるけどあげよっか?」
あぁ、やっぱり俺はこの人に恋なんかしていない。そう思った瞬間に心の中にあったもやもやがいっきにはれた気がした。
……少しでも素直になろうとした自分が馬鹿だった。恥ずかしい。というか、便秘って一体何の話しだ?そもそもこの人と会話が通じたことって、過去であっただろーか。
何だか、目の前にある道は険しいような気がしてならない。
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イメージソング「メランコリック/Junky」