「花子先輩、暇っすよね!暇じゃなくても暇って言ってください!」


「……どうしたの、赤也」


夏休み、補習が終わって帰ろうとしたら廊下で待ち伏せしていたらしい赤也に出くわした。そして今に至るのである。


「お願いしますよぉー…暇って言ってください!」


「いや、言うも何も状況が把握できてないんだけど」


「じゃあ直球で言うから耳の穴かっぽじって聞いてくださいね!合宿、ついてきてください!」


「……はぁ?」


これから進路を決める大事な中学3年の時期に、何を言ってるんだろ、赤也は。呆れたようにため息をつくと「……駄目っすか?」と赤也がしょんぼりしながら首をかしげる。


「あー…いや、駄目とかじゃ、ないんだよ?うん」


「じゃあいいんすね!」


「え!そうは言ってな「やったぁぁあぁああ!じゃあ、これから俺は電話で打ち合わせなんでまた明日!電話します!」………え、ちょ…」


言いつくろう暇もないまま赤也は大きく手をふって嬉しそうにはにかみながら言ってしまった。…って、ちょっと待ったぁぁああああぁぁ!だから、私は受験!



「赤也ぁぁぁあぁぁああ!」


そう叫んで引き止めたのだけど、何を勘違いしたのか赤也はくるっと振り返ってから「?」を浮かべながら大きく手をぶんぶん振ってきた。だから、違ううぅううぅう!

いけないんだってば…!




「ちょ…赤也…」


行ってしまった赤也を止められず、差し伸べた手は何も掴めず宙をさまよう。あぁ…もう、どうやって赤也に伝えればいいか…なんて悶々と考えていたら後ろからくすっと笑う声が聞こえた。




「………あ、幸村」


「……花子も苦労しているね」


「………見てた?」


「まあ、一部始終」


「止めてくれてもいいのに…!」



そういうと、「2人のやりとりがおもしろいから」といって幸村はにっこりと微笑んだ。…何だこの魔王様。フォローしてくれないところが幸村らしいというかなんというか。



「……あぁ、どうしよう…」


「いけばいいじゃん」


「…え?」


「合宿でしょ?全国大会終わってすぐっていうのもきついけど、気晴らしに行ってきたら?」


「……幸村はこないの?」


「俺は勉強しないといけないからね」


「………」


「そんな顔されてもいけないよ。赤也はまだ部長になりたてだから色々と心配な点もあるしね。デビル化する前に花子が止めてあげなよ」


「でも、夏休み終わるよ?っていうか、普通に授業あるから私行ったら怒られない?」


「大丈夫大丈夫。公欠になるから」


「嘘だ…!」


「先生に何か言われたら俺がフォローするから。それに、テニス部は実力も認められてるから先生も文句言わないと思うけど」


「……ううーん」


「まあ、いくか行かないかは花子が決めなよ。行きたいのなら俺は花子をフォローするから」


「………幸村…!」


何抱きつこうとしてんの?殴られたい?」


「っひ…!いえ、すみません!」


ちょっと頼れる男だとか思ったけど、やっぱり口を開けば最悪だった!…くすくす笑っている幸村が悪魔だ。


デビル化した赤也より、正直幸村のが怖いとか思う私は正直者なのだと思う。


急なお知らせ






「(……行こうか迷うなぁ…)」

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