お姫様だっこされる
「待てえぇぇええぇえ!俺のイグアナの、消しゴム返せぇぇえぇぇえ!」
「返すものかあっぁあぁあぁああ!」
謙也の大事な消しゴムをとったから罰があたったのでしょうか。謙也から走って逃げている途中、何もないところでつまずき地面へダイブ。
その拍子に右足首がゴキッと変な方向に曲がったのだった。
「うがぁぁあぁあ!痛い!痛いいいいい!」
「アホかお前!ちょ、足見せてみ!」
謙也に頭をどつかれながらも、足首の痛みはとれない。ゴキッていった!ゴキッて!
ぴーぴー泣いていると、謙也が「あぁ…捻挫やな、これ。はれとるわ」とため息をひとつ。
「うー…痛い、痛いよおおお、小春ぅううう」
「何で小春やねん。小春関係ないわ!それよか、保健室行くで」
ちょっと場をなごませようと笑いをとろうとしたのに、謙也が笑わない。あー…どん滑りした。恥ずかしい、足首の痛みよりどん滑りの痛みのほうが勝ってるような気がする。
そんなことを悶々と考えていると、謙也がひょいと私を担ぎ上げる。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「って、はぁぁあぁぁあ?!」
「な…何や、何か文句あるんか!」
「きゃあっぁあああ!えっち!先生、ここに痴漢がいます!警察よんでください!」
「おま…怪我人が何言うてんねん!ちゅーか、おとなしくせぇや!」
おとなしくしろって言われても、恥ずかしいじゃんか。ちょ…ここ学校ね!駄目だって、恥ずかしいって!顔を真っ赤にして謙也に「おろしてえぇぇえええ!」と抵抗するが、謙也は私の言葉に一切耳を傾けず、「浪花のスピードスターやぁぁああぁぁああ!」といって廊下をかける。
ガラッ。
「せんせー!こいつ、怪我し…って、先生おらんのか…」
勢いよく保健室の扉をあけたものの、先生は不在中らしく扉の前に「先生はいません」とプリントがはられていた。こういう時にいないんだから…!
怪我した私が悪いんだけど!
「お、花子に謙也――……、お前らいつからそんな関係になったん?」
「何か、謙也がいきなり『結婚しよう』とか言い出してさー…お姫様抱っこされて、どこ連れてこられるかと思ったら保健室だったんだよね。きゃー!私、何されるの?!白石助けて!」
「………っちゅー妄想をしとるやつおるけど、謙也どないする?」
「とりあえず蹴り飛ばしてええ?」
「おん、思う存分蹴り飛ばせ。俺が許可する」
「って、怪我人だからね!私怪我人だから!冗談だから、ごめんなさい」
「「わかったならええねん」」
保健室に入って怪我の手当てに詳しい白石に、応急処置をしてもらった。軽い捻挫らしいけど、一応医者に診てもらったほうがいいと白石におすすめの病院を教えてもらった。……っひー、足首痛い。
「……その、すまんかった」
「え?」
「あー…俺のせいやろ?俺が追いかけんだら、こんなことにならへんかったし…」
帰り道、謙也が私をおぶりながら申し訳なさそうに言葉をつぶやく。…いきなりの謝罪に目をパチクリさせ、思わず言葉を失った。
「軽い捻挫でも、何日かはまともに歩けんやろ。俺が歩く補助、してもええか?」
「え?いいっていうか…逆にいいの?私が勝手に足捻っただけだよ?」
「ええっちゅーか、させてほしい」
そういって、頬を赤くする謙也にちょっとキュン。…謙也のデレ、初めて見たかも。
「謙也……」
「………な、何やねん」
「あんた……」
「?」
「私のこと、好k「お前ほんまに蹴り飛ばされたいんか?」はーい、おとなしくしてまーす」
ちくしょう!やっぱり、謙也は謙也だった!
それから、何日か本当に謙也が私の歩く補助をしてくれたのに感動。どこへいってもついてくるので、「ストーカー?」と聞いてみたら「お前にストーカーなんてつかんやろうなあ、絶対」と返された。
……これは、聞かなかったことにしたい。