ガチャッ。



「あ」


「……え?」



着替えている途中、たまたま部室に入ってきた幸村に顔を赤くして発狂するまで後5秒。




うぎゃあっぁああぁぁあ!


「あぁ。何、着替えてたんだ?ごめんね、着替え終わったら声かけてよ」


そういって、幸村が平然と部室の扉を閉めた。え、ちょ、待て。なぜ平然としている、なぜ何も言わない、なぜ動揺しない…!


一人で慌てふためいた自分に逆に恥ずかしくなってきた。



せっせと着替えると、ガチャッと部室の扉を開ける。


扉の前には、「やっと終わったんだ?」と魔王様がニッコリと微笑んだ。





「………はい。あの、なんか、ごめんなさい」


「何で謝るの?」


「いや…なんか、汚いもの見せてごめんなさい」


「あぁ…そのこと?それなら別に気にしてないよ、花子の胸が貧乳だったとかお腹がぼよんだとか、そんなこと部員に言いふらさないから」


言いふらす気だな?言いふらす気だな?!ちょ、お願いします本当にやめてください…!」


必死の懇願により、幸村が「……仕方ないなぁ」と唇をとがらせながらもわかってくれたらしい。……一応は。




「それよりさ、何で着替えてたの?いつもは女子トイレで着替えてたじゃないか」


「いや…その、女子トイレで着替えると女子に絡まれるから…」


「あぁ……」


うーんと眉間に皺をよせた幸村は、少し悩んだかと思うとすぐに何かを思いついたように顔をパァァと輝かせ、「いいこと思いついた。明日からは、いつも通りに着替えなよ」と微笑んだ。


何をする気だ。黒魔術を使う気か…?ま、まぁ…女子に絡まれなくなるならいいけど…。




「でも、よかったね。見たのが俺で」


「え?」


「花子のその寸胴な身体、ほかの人が見たら1週間は立ち直れなくなってたんじゃないかな?」


そこまでだめなの?そこまで私は魅力ないの?」


「あはは」


「否定してよ!」


あぁ…私はそりゃあ胸はないしお尻だって垂れ下がってるし、くびれもありませんよ!だけどね!だけど、そこまで言わなくてもいいじゃないか!




「怒った?」


「………怒ってない」


「怒ってないなら眉間に皺よらないよ、普通」


そういって、ぷにぷにと私のほっぺで遊び始める幸村をギロリと睨んでから、「じゃあ、マネージャーの仕事しますから」と洗濯物に取り掛かろうとした。その瞬間――。




「………いと思うよ」


「……え?」


「そのままで、いいと思うよ。花子に色気なんて今更いらない、そのままの花子だからいいんだよ」





不意打ちをくらい、口をあんぐりあけている私を見て幸村は腹を抱えて笑い出した。……っく、やられた!私のあわてる様を見たかっただけだったんだ…!




「も…もう、知らない!」


そういって、歩き出す私の背中につぶやいた一言は、幸村だけしか知らない。





「あはは……、花子は可愛いなぁ」




覗かれる




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