押し倒される
パシャッ。
カメラのシャッター音がきる音が聞こえ、すかさず窓ガラスのところに視線をやると、花子さんがデジカメで俺の生着替えをとっていたのだ。
これがきっかけでとある事件が起きるのを、俺はまだ知らない。
「………何、してるんですか」
後ろに黒いオーラをまとわせながら、日吉がこちらに歩み寄ってくる。…だ、だって!日吉の生着替え、見たかったもん!ついでに写真をパソコンの待ち受けに、と思ってデジカメで撮っただけだし。
「減るもんじゃないでしょ」
「減りはしないですけど、プライバシーの侵害ですね」
「まったく、誰だよ!日吉のプライバシー侵害してんのは!」
「そこのあなただ!」
そういって、日吉が近くにあった飲み終わったドリンクのからを私の顔面めがけて投げてきた。それが見事的中し、私は後ろへ倒れる。ちょちょちょ…!
はしごを使って覗きをしていたから、ガシャンッ!とすごい音とともに背中を強打した。あいててー…あ、でもデジカメは無事みたい。
ほっと一安心したのも束の間。上を見れば、日吉がジトッとつめたい目で私を見下ろしていたのだ。
「………えへ」
「俺の着替えの写真、消してください」
「や、やだ」
「往生際が悪いですね」
さすがに日吉の生着替え写真を消されるのは辛い。体張ってハシゴまでのぼったんだから、いくら日吉の頼みでもそれは聞けない!
急いで立ち上がると、私はカメラをTシャツの中に隠した。
「……っふ、とれるものならとってみろ」
「じゃあ遠慮なく」
「え?う、うそ!」
日吉はためらいもなく私のTシャツをまくりあげた。ちょ、跡部たちがこっち見てるから!
あせった私も、カメラをとられまいと必死に抵抗。
腕を掴み、掴まれ、あーだのこーだのやりくりしているうちにデジカメは私のてのひらからするりと抜け落ちて、地面へと落下。
「「あ!」」
私と日吉が同時にデジカメへ手をのばした瞬間だった。
「……わわわ!」
「……っ!」
日吉の足が私の足と絡み合い、そのまま2人で地面へダイブ。いてぇぇえぇえ!また背中打ったよ!
あいててて…と目を開ければ、わずか数cmのところに日吉の綺麗なお顔が。
「う……うぎゃあっぁぁああぁぁ!な、何?!何してんの日吉、いくらあんたでもこんなことしていいわけじゃないからね!あんた、先輩が忍足だからってそんな不埒なことしていいわけないからね!」
「はぁ、何言って――…」
日吉は自分の状況に気づいた瞬間、頬を赤くしながら後ろへ飛び退いた。いくら私が嫌だからって、そこまで飛び退かなくても…。でも、日吉も男の子だもんね。
馬乗りっていう状況にびっくりしたんだろうなぁ、私もびっくりしたもん。
「…………!あ、こ、これは――…!」
日吉が何か言いかけた瞬間、どこからともなく忍足の「ひゅーひゅー!熱いなぁ、お2人さん!」という言葉が。
その声が聞こえた瞬間、日吉は一気に顔を青くし、こっちを見てザワザワしているスタメン達のほうに振り返った。
「せんぱ……!ち、違います!これは、だから――」
「お前ら、そういう関係だったのかよ」
「ちょ、向日さん!違います!」
「よかったね……日吉」
「鳳、なんだその同情のまなざしは!だから、」
「いっそ私と結婚するかい?」
「花子先輩はこれ以上ことを荒立てないでください!」
ちょっとからかってやったのに、日吉がぷんすか怒った模様。
なんとか誤解をとこうとする日吉にときめいたとか、今の状況でいったらぶん殴られるだろうからやめとこうと思う。
「でもなぁ、日吉…。こんな公の場で、あかんで?」
「はぁ…?」
「いくら女に飢えとったからって、花子の服に手つっこんで、あろうことか押し倒s「誤解です!」
「日吉……いくらお前でも、その趣味は……」
「宍戸さん!違います、だーかーらー……!」
延々と繰り返される光景にぷっと吹き出すと、日吉のげんこつがとんできた。痛い。地味に痛い。……それから1週間、日吉が私としゃべってくれなくなったとか。
それと、ちゃんとデジカメの日吉の生着替え写真も消されました。あの画像…パソコンの待ち受けにしたかったのに…!悔しいからまた今度、挑戦することにしよう。