「ぐあああぁぁあぁああ!私は風だ、千の風になってやるぅううう!」


わけわかんねぇよ。どうでもいいけどちゃんと肩つかまっとけよ」


「はーい」


私もわけわかんないと思ったけど。というわけで、庶民は庶民らしく仲良く2人乗りしておうちに帰ります。ちなみに、宍戸が運転する側で私はその後ろで宍戸の肩を掴んでいる。あー、涼しい。あー、楽。

今時自転車だよね。ベンツとかかっこ悪いよね、なんて僻みを跡部にでもぶちまけてやろうか。まあ相手にされないだろうけど。




2人乗りする






「うぎゃあああぁああ、坂!ちょ、マジ、やめえぇえええ!」


容赦なく坂をおりてく宍戸に、思わず悲鳴をあげる。うお、ちょ、ブレーキ!ブレーキかけろおおおお!

……ああ、お母さん、私ここで事故って死ぬのだろうか。いやだ、宍戸と死ぬとか。一生長太郎に恨まれるよ、なんて思ってたら、私の意志が通じたのだろうか。宍戸が「ミラーで確認してるから大丈夫だっつーの…」と苦笑している。



「あ、あこ――」


「ん?」


「前にあるコロッケ屋さん、おいしいんだよ」


「……食べたくなったか?」


そうきかれて、「違います。私今ダイエット中なんです」なんて嘘をついたら、宍戸が何を察したのか「仕方ねぇな、今日は俺のおごりだ」なんて自転車をとめてコロッケを買いに行ってしまった。



「あらあら…カップル?」


違います。友達です」


「ふふ…そうなの」


真顔で恋人を否定した宍戸がちょっと憎い。ギリギリと歯軋りをしていたら、宍戸がほらよっとコロッケをなげてきた。あ、あったかい。



「いいの?」


「俺のおごりだ。つーか、ダイエット?お前ににあわねぇ」


「うるさい、私だって悩みの1つや2つ…!」


あるんだからね、なんていおうと思ったんだけど、悩みなんて今の私には1つもないことに気づいた。――悩みがない、っていうのもある意味問題な気がする。




コロッケを食べながら再度自転車をこぎはじめる宍戸と、その後ろでコロッケのカスを落としながら食べている私。



「おい」


「ん?」


「………頼むから、カスは制服に落とすなよ」


「大丈夫、地面に落としてるから。アリさんの食料になってるから」


っていっても、今走ってるところ全部コンクリートだけどね!アリさんいないかもしれないけどね!


「……まあいいけどよ。あ、あそこ歩いてんの――」


そういって宍戸が指をさした先には、日吉が歩いていた。相変わらずむっとした顔をしていて、私と宍戸を見て驚いたように目を見開いたが、何だか可哀想なものを見るような…なんともいえない同情のまなざしを送ってくれた。

宍戸は自転車を日吉の歩くスピードに合わせる。



「よぉ、日吉じゃねーか」


「ああ…宍戸さんと花子さん」


「………何、その目。日吉、何でそんな目してんの?何?」


「いえ…。野生の暴れ猿が2匹自転車にのって街を破壊しているような気がして」


「「なんだとゴルァ!!」」


「……相変わらず阿吽の呼吸ですね」


そういう日吉こそ、相変わらず口が悪いね。なんていおうと思ったけど、日も落ちて暗くなってきたので宍戸が慌てて自転車をこぎはじめた。去り際に日吉が一言、「怪我だけはしないでくださいよ」と声をかけてくれた。なんだかんだでやさしい後輩なのだ、うむ。




「ぐああああ!また坂ああああ!」


「あ!こら、おま、揺らすなって!」


坂道にびびって宍戸の胸にしがみつくと、宍戸が耳を真っ赤にして動揺した模様。――ぐらぐらと左右にゆれる自転車は、揺れながらも何とかバランスを保っていたのだが……。


「ぎゃああああああ!」

「うおおおおぉお?!」



目の前にある川にダイブ。

ちょうどガードレールがなかったのが原因のひとつでもあるのだが、まさか坂道の先に川があるとは…!



「つめてぇええええ!」


「うぎゃああああ!寒い、寒いいいいい!」


「花子、てめえなあ…!胸つかむんじゃねえよ!」


「ならどこ掴めっていうのよ!」


肩だろ!




――そんな喧嘩が1時間以上続き、次の日柄にもなく風邪をひいた。寝ていると長太郎からメールがきた。…ん、どうしたんだろう。メールの内容は、どうやら宍戸と私が休みだったらしく不審に思いメールをしてきたらしい。うわあ、まさかの宍戸もか。携帯をパタンと閉じた瞬間、もう1通メールが。



あ、宍戸だ。



『お前も風邪ひいたのか?今日はゆっくりやすめよ』なんてメールが。……宍戸って、優しいんだなあ。






「『宍戸って馬鹿なのに風邪ひいたんだね、ゆっくりやすみなよ』……よし完璧OK」


このメールが引き金となって次の日学校で喧嘩が繰り広げられたのは違う話し。



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