「わんわんおー!」


「花子さん…急にどないしたんですか。」


自分でもよくわかんない。うん、ごめん。……犬になりたい気分やってん。」


「………そっすか。」


財前…何で君は私を痛々しい目で見るんだい?確かに財前はいいやつだよ、分かってるけどたまに私に冷たい態度をとるのは何でだろーか。






「あ、来た。」


「何が?」


「部長が。」


財前が指差す方向には、蔵がいた。必死に走っている姿が見える。……は、え、ちょ。どういうこと?いや、誰か説明を。説明をしてください。




「………、」


「何逃げようとしてはるんですか?」



蔵に会うのが気まずすぎてこっそり逃げてやろうと思ったら案の定財前に捕まった。



離せこのヤンキー…!何これ新手の嫌がらせ?ちょ、マジで無理!無理無理無理!」


「……何が無理やねん、あんたらアホちゃいますか。」


そういうと、財前は私の腕を思い切り引っ張って前へ出すと背中を思い切り蹴りやがった。――恥ずかしいことに私は前へ思い切りめり込んで倒れてしまう。



「ざいぜ――「花子、」


財前を思い切り罵ってやろうと思ったが、私が振り返った頃には財前は遠くで手をヒラヒラふっていた。……あのやろう。かわりにそこにいたのは、蔵で。必死で走ってきたんだろうなあ。髪の毛が額の汗にへばりついてるし、肩を上下にゆらして、ぜーぜーと息を整えている。



「………何で、ここにきたん。謙也が何か言った?」


「………謙也、やない。財前が、花子が女子に絡まれとるって――。」


そういって蔵は周りをきょろきょろしてから、また私に視線をおとす。



「――…財前に、はめられた…んか、俺…。」


「………。」


「………っは、アホ、やな……俺……。」


「………ほんと、アホだ。財前の嘘に何騙されてんの。」


「…………すまん。」


そういって俯く蔵。……私なんかのために、こんな汗かいてまで走ってきてくれたのかと思うと正直嬉しくて泣きたい。胸がはりさけそうだ。



「………アホだよ、本当アホ。」


「………。」


「アホすぎる……蔵は、本当アホで馬鹿で…変態だ……っ」


語尾を言うのでやっとやっとだった。声がふるえた。涙が頬を伝う。本人を目の前にして、笑っていられるほど私は強くない。

――やっぱ好きなんだ。


蔵が、好きなんだ。


蔵以外のほかの誰かなんてきっと絶対好きになれない。







「……泣きながら変態って、言うなや。」


そういうと、蔵は私の頭をつかむようにして抱きしめた。ぎゅっと、きつく、つよく。



苦しいよ、蔵。抱きしめられると、私、苦しいよ。



自分の中の感情がかき乱されていく。このまま時が止まってしまえばいいのに――。……ふられるって分かってるけど、やっぱり、私は蔵が好きだ。大好きだ。





「………私、やっぱ蔵のこと…好き…っ」


「………。」


「蔵以外なんてありえん……」



こんな乙女チックな台詞、普段なら絶対口がさけても言わないのに。――なんで蔵の前ではいえるんだろう。この気持ち、どうにかしてよ。



好き





「(……俺は、俺は花子のこと――)」





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