傷つけたくない
「話しってなんや、謙也。」
参考書を閉じて眼鏡をはずすと、白石はこちらをジッと睨んだ。…おぉぉ、なんやその威圧感。これやから顔の整ったイケメンは嫌やねん、なんか俺蛇に睨まれた蛙みたいやん。
「……花子。」
「……っは?」
「中庭で…花子、待っとるで。」
ちゃんと説明せんなんのに…なんか、怯んで、一番大切な部分しかいうことができんだ。…あぁ、アホ!俺、ちゃんとせぇ!
「……花子に、待ってもいかへんって伝えといてくれるか?」
「……っは?」
「……。」
「お前…何、いうてんねん。」
白石は俺と目をあわそうとはしない。…ただ、白い床を呆然と眺めている。
「……白石は、花子好きとちゃうん?」
「………。」
「何で…好きなやつを、傷つけるん?」
「謙也――」
「俺には分からへん!お前が何言いたいか、お前が何考えてるか…!好きもん同士なら付き合えばええやん、どこに不満があんねん!!」
気がつけば、教室がシーンとなっていた。クラスメイト達は、みんな俺達2人を見ている。…なんや、見んなや。コソコソ話しが妙に自分をいらつかせる。
「――好きもん同士なら付き合う。本当に、そんな方程式が通じるなんて思える謙也は純粋やなあ。俺…お前みたいになりたかったわ。」
「………っ」
「すまんな、謙也。………おおきに。」
っは…。なんや、白石。お前かっこつけとんなよ、このままお前いってもーたら中庭で待ってるかもしれん花子はどないすんねん。今更『すまん、つれてこれんかった。』なんていえるわけないやん…!
教室の扉へ向かう白石の背中。…行ってまう。ひきとめな、あかん。花子と白石を…なかよぉさせなあかん。
「……白石、」
「………。」
「俺じゃあ…何もお前の役にたたへんの?」
「………そんなこと、ない。」
「なら――」
「謙也。……もう、ええねん。」
大切な人を傷つけることなんて俺にはできんから。そういって、白石は行ってしまった。…かっこつけて、お前らしくない。
「……謙也、ほんま足速かったなあ…。」
えぇ…残された私どうすりゃいいんだよ…。