"四天宝寺が負けた"。


試合終了の合図とともに、みんなコートの真ん中に整列して礼をした。ユウジや小春にいたっては、笑わせたりして場の雰囲気を和ませたりしているが、私はどうも笑えない。

――氷帝が負けた、というのは日吉から聞いていた。



『……青学はとにかく強い。それなりの覚悟をもっていったほうがいいですよ。』

そういってくれた日吉の忠告を聞いてはいたが、私達では青春学園を打ち破ることはできなかった。

日吉も、こんな気持ちだったのだろうか。愕然とした、というか。まだ現実を受け入れられないというか。




「――……っ」


笑って握手をしあっている仲間。抱擁をしあっている仲間。感極まって、泣いている仲間。


――そのどれもが私の心を揺さぶって、胸が苦しくて。




「花子ちゃん、ごめんな…この前は優勝できるなんて、言ったんに…。」


「いいよ、小春。めっちゃくちゃいい試合だったから!」


強がって元気なふりをしてみせる。――今の私は、いつもどおりの私だろうか。


分からない。ただ、今すぐこの場を逃げ出したい。





「――花子ちゃん?」


「ごめん、小春…わ、…わた…し、ちょっと…トイレ。」


そういって駆け出すと、小春が私の名前をよぶ声が背後から聞こえた。――ダメだ、涙をとめられそうにはない。彼らにはこんな情けない自分を、見せられるわけがない。


悔しい。負けたことが、悔しい。


勝ってほしかった。自分の中で、少なからず四天の優勝を期待していた部分もあった。

…心がズキンとする。




「……っふ…ぅ…っ」


両手で口を覆うが、嗚咽がどうしてももれてしまう。――みんな、いい試合をした。それは納得できるが、どうしても…どうしても、勝たせてあげたかった。


勝負に勝ち負けはつきもので、こうなっても仕方ない。分かっているのに、まだ認められそうにない自分がいる。










「(あれ、小春、花子はどこいったん?)」

「(あ、蔵リン…。トイレって言うてたけど、多分どっかそこらへんの木陰で隠れとると思うで。探してあげてくれるかしら?)」

「(……そっか、おおきに。)」




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