「おーい、ひよっこー!おっせーぞ、ダラダラしてんなー!」


「……はぁ。」


どうして向日さんは練習試合の後なのにあんなにぴょんぴょん飛び跳ねていられるのだろうか。ダダダダダッとかけていくとしまいにはバックちゅうをしはじめた。……本当にやめてほしい。見てるこっちが恥ずかしい。


「(練習試合は終わりか。)」


四天宝寺との練習試合も終わり、バスへと乗り込む最中だった。向日さんは元気に「いっちば〜ん!」と言いながらバスの中へと走っていった。その後に続き芥川さんが「あ〜!岳人、ずるい!俺も俺も!」なんて言いながらいってしまう。……元気なことはいいが、どうしてあんなに体力があるのだろうか。

さすがは先輩たちだ。…その体力をすべて試合にだせばいいのに。なんて言ったら向日さんあたりがふくれっつらになるのは想像できる。



「はい、荷物くださいね〜」


「すみません、お願いします。」


人のいいバスの運転手に荷物を預け、さあ後はのるだけ。四天宝寺とはお別れで、しばらくは…きっと花子先輩とも会えそうにはない。




「(……意味があったのだろうか。)」


この練習試合…花子先輩と会って意味があったのだろうか。


そんなことを考えながら、空を見上げた。オレンジ色にそまった空は、なんだか悲しく見えて。むしょうに花子先輩に会いたくなる自分がにくいと思った。



「(さぁ、のるか。)」


そう思い階段を1段のぼったときだった――。





「ひよ、日吉ィ!」


「………っ、」


「日吉、ちょ、待って……!」


聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。俺は階段から足をおろすと、振り返る。



「な…んで、来たんですか。」


「見送りに。」


「……先輩、」


なんだか泣きそうになった。やっぱり先輩は俺の知ってる先輩で、小さな頃からずっと恋してきた幼馴染そのものだった。


ねぇ、知ってますか?先輩。

先輩と電話できるだけで…メールできるだけで、満足している俺がいたんですよ。そんなこと恥ずかしくて口がさけても言えないけれど。




「………日吉?」


「……っ」



気がつけば、ポロポロと涙がでていた。

なんて女々しいのだろうか、自分は。――本気で、恋していたのだ。何年も、何年も。この恋にピリオドをうつのが嫌だ。先輩じゃなければ、俺は、わがままだなんて分かっている。だけど、そんなよこしまな気持ちがでては、俺のなかの良心が"だめだ"とつげている。


――好きな人には、やっぱり幸せになってほしいから。


先輩の想い人は、俺じゃないから。分かっているから、苦しくて悔しくて仕方がない。





「……日吉、ありがとう。」


「……、」


「また、電話するね。」



そういって、花子先輩は俺の左手を小さな両手でぎゅっとにぎりしめる。――え、なんだこれは?

ふと手のひらに違和感を感じてみてみると、おまもりが握られていた。




「……お互い、大会頑張ろうね。」


「………」


「じゃ、それだけだから…。」




そういうと、遠のいていく先輩の後ろ姿。――気持ちが、募っていく。切ないだけの気持ちばかりが。




「先輩……!」


「え?」







「好き、です……!」


そういうと――先輩はびっくりしたような顔をしてから微笑んで「ありがとう。」といった。




気持ちが募る




"ありがとう"。

――それが何を意味しているかは明白で、自分はふられたのだと自覚するたびに呼吸ができなくなる苦しさに襲われた。



だけど、言ってよかった。後悔はしていない。



「(まだ…このままの気持ちで。)」


先輩を好きな気持ちは変わらないままでも、いいですよね?




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