――試した、って何をだよ。蔵が何を言いたいか分からないまま、私は自分の手が留守だったことに気付きまた作業をし始める。


しばらくして完成したドリンクをみんなに運び、手があいた私は何をすることもなくベンチに座ってみんなの試合を観戦していた。…っわー、すげぇ。氷帝も凄いけど、四天も劣らないほどの力量を持っている。

……なんか、まるで自分の知らん人たちみたいや。



ぽーっとしていると、後ろから「っわ!」と大きな声とともに両肩を誰かにつかまれた。


ぎゃあぁっぁああ!誰?!誰?!」


「あっはっは。お嬢さんほんまおもろい反応すんなあ。」


「………誰ですか。急に驚かすなんて卑怯だろ。」


「いや、すまへんなあ。それにしても今の反応はごっつよかったで。お嬢さんとお笑い組んだら結構上目指せそうやなあ。」



……どうしよう。誰この眼鏡の人。格好からしたら氷帝の人なんだろーけど、氷帝で面識のある人っていったら日吉ぐらいしかいないからどうして今自分が話しかけられているか分からない。

あ、もしかしてナンパ?いや、まさかね…。



「もしかしてナンパですか?」


「まあ、そういうところや。」


ぎゃあぁぁああ!財前んんん!何か変なのに絡まれたー!」


「……ちょ、先輩うっさい。


たまたま通りすがった財前に声をかけてみたらあしらわれてしまった。…何だよ財前!生意気なやつ!私を助けてあげよーだとかそういったことはしてくれないんだね。



「……っちゅーか、それ…謙也さんのいとこ。」


「………え?」


「おー、謙也のパートナーの財前やないか。相変わらず生意気やなあ…。」


「どういたしまして。」


「…いや、今の褒め言葉ちゃうで。」


……コレが謙也のいとこ?マジで?どうしてそういったつながりの人いるって教えてくれなかったんだよ…!知らなかったよ、日吉との会話でも1回も出てきたことないのに…!



「…いや、お嬢さんが日吉の幼馴染なんか…。」


「……何、その目。」


「いんや?ただ…なんや、日吉とは馬があわなさそうなお嬢さんやなあ思ってな。」


そういって、謙也のいとこは「ほな俺は試合やから。」とヒラヒラと手をふっていってしまった。……軽く貶された?


「……私、日吉と馬あわなさそうに見える?」


「いや、何でそれを俺にきくんですか。」


「財前なら正直に答えてくれるかと。」


「……いや、日吉と面識ないからよぉわからへんっすわ。」



面識がないならわかるはずがないか。…無茶ぶりしちゃったかな。ごめん、財前。




「先輩、なんや落ち込んではります?」


「え?」


「……あ、やっぱいつもの不細工な先輩やった。」


「どういうことだ財前んんんん!」


…不器用な言葉ばかり言われるけど、なんだかんだで財前は私のことを少しは心配してくれていたのだろうか。あぁ、ダメだな、私。いろんな人に心配かけちゃって…しっかりしなくちゃ。




しっかりしなくちゃ




「ウォンバイ日吉!」


遠くからきこえてきた審判の声に、グラウンドのほうに目をやると日吉がどうやらシングルスの試合で勝ったらしい。そんな日吉の姿を見て、私も負けていられないなと部員達のTシャツを洗濯機から取り出して竿にかけた。


「(……あ、やばい、とんでっちゃう…!)」


せっかく干した洗濯物がヒラヒラととんできそうになった時、どこからともなく蔵がにゅうっと現れた。……どこ●もドア使った?何でそないに都合よく現れるんかな。


「あっぶな。お前本当今日どないしたん?アクエリぶちまけるわ、洗濯物落としかけるわ…。」


「いや、うん。悩み多き年頃で。」


「え?なんかいった?


そういってからかってくる蔵に「うるさいあっちいけー」といったら「はいはい、倒れん程度に頑張りや」といってしまった。……行ったら行ったでなんだか虚しくなってしまう。




「(いかないで、なんて手をひっぱれたら。)」



この気持ちを蔵に伝えれば、すべて楽になるのだろうか。……なんて、自分らしくないな。そう思いながら私はまた作業に戻った。






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