「………日吉?」


彼の名前をよんでみるが、返事が返ってこない。心配になって顔色をうかがおうと思うが、抱きしめられているから見ようにも見れない。


「…………大丈夫?日吉。」


「……すみません、その…なんていうか。本当は忍足さん…いえ、忍足謙也さんに、事情を全部聞かせていただきました。」


「え?」


花子先輩の気のぬけたような声が聞こえた。……胸倉を掴んだ後、跡部部長に『頭を冷やせ』と言われた。

胸がもやもやする。

大切な幼馴染を、見ず知らずの男に傷つけられた。それがどうにもむかつく。タオルを頭にのっけて、地面を見ていた。白石さんの胸倉を離した時、花子先輩はいち早く白石さんのところにかけつけた。肩を支えていた。

……その光景が、頭に焼き付いて離れない。



『……。』


白石さん…って人は、花子先輩の想い人なのだろうか。今まで電話やメールをしたりしてきたが、白石さんの名前を出されたことはなかった。

……そういえば、白石さんも花子先輩と同じ苗字。


それがまるで2人の運命を感じさせるようで、何だか悔しい。




『……なぁなぁ。』


『……え?』


『白石のこと、堪忍したって。』


急に頭上からふってきた声に顔をあげると、そこには忍足さんのいとこ――謙也さんがいた。彼は両手をくっつけて『な?このとおりや!』なんて頭を下げている。


……いや、かりにもこっちは後輩だぞ?
こんなに簡単にぺこぺこ頭下げて…。


『……いえ、こちらこそ無礼なまねをしてすみませんでした。』


『いやいや、そんな謝らんでええよ。あんな、白石…あ、変態のほうの白石…っちゅーても分からんか。男のほうの白石やけど、あいつ、あれでも責任感強いやつやねん。』


『………はぁ。』


『部長とかそういう任されるようなタイプのやつやから…多分、花子のこといっちゃん気にしとると思う。』


『………。』


『俺もよぉ話し詳しく聞かされてないから分からんのやけど…多分、花子も白石も、2人とも事情を話そうとか思わんようなやつらや。簡単に俺が言ってもええかわからんけど…花子と幼馴染なんやろ?なら、俺の口から伝えよ思ってきたんや。』


『………。』


『白石な、あいつ顔ええやろ?しかも性格もええときた。そんなん女子が見逃さんっちゅー話しや。跡部みたいにファンがおってもしゃーないやん。』


『………はい。』


跡部部長のファン…は過激なファンが多い。大量のラブレターやチョコレートを貰っている光景をよく目にする。写真つきのうちわを作る人やサインをしてもらっている女子もいる。……それを見ていると、憧れをとおりこして呆れさえ感じる。



『花子な、白石と仲ええねん。んだら、女子達に目つけられて呼び出しくらって、抵抗したらしいねんけど相手がバットもっとったらしくて。……そのまま、バットで足首やられたらしい。』


『……っ、』


『そうやな…すべての元凶が白石や、って言っても確かにおかしないやろ。アイツがファンの管理をしっかりせんかったのは欠点やと思う。』


『………。』


『せやけど…アイツはそのことに自分が何より気付いとるし、誰より責任感じとると思う。そこまで追い詰めんでもってくらいや。……せやからな、責めるなとは言わへん。けど、あいつのこともちょっとは考慮したって。』


そういうと、忍足謙也さんは『ほな、俺これから試合やから。』と風のように去っていった。……そういわれると、何だか自分が悪いような気がしてたまらない。



『……白石、蔵ノ介……。』



あの人は…花子先輩のことをどうおもっているのだろうか。

そんなこと考えても、分かるはずなどないのだが。



苦悩




「(花子先輩を離したくない。)」







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