「……お前と日吉君が幼馴染……。そんな話し一切聞いてないで。」


「なら今言うわ。幼馴染やねん。」


「いや、もう聞いたから。2回も言わんでええから。」


「えへへ。」


「えへへ、ってなんやねん、笑うな気色悪い。」


蔵、口悪くないか。さっきまであれほど「足大丈夫か?」とか「すまんかったな。」とかいたわってくれてたのに、あの時の優しい蔵はどこへいった。私は幻でも見てしまったのか。


「っていうか日吉の電話なんだったんだろうね。」


「それもそうやな…用もないんに電話するタイプでもなさそうなんにな。」


「でも蔵は用もないのに電話するタイプだよね。一番タチ悪いパターンだよね。」


「まあそれほどでもない。」


何でこいつ嬉しそうにしてるんだろ。褒め言葉じゃないし、むしろ貶してたんだけどなあ。




「じゃあ、俺はそろそろ帰るで。……っていうか、お前、そんなはれとるんによう歩けるな。」


「え?いや、まあ、慣れたっていうか。」


……実際痛いといっちゃ痛いんだけど、歩けないほどではない。足首はパンパンにはれあがっているのに歩ける自分…ある意味普通じゃないのかもしれない。



「……はぁ。なんかそんなお前見たらほっとしたわ。」


「え?」


「なんや…元気そうで何よりやわ。」


そういって蔵は私の頭をわしゃわしゃにしてからぽんっと手を置いて、「ほな。」と手をふっていってしまった。――私はくしゃくしゃになった髪の毛をなおすことすら忘れて、ただ呆然と蔵の小さくなっていく後ろ姿を見送った。



……帰っちゃうのか。

どうしてだろう。行ってしまう蔵の姿を見ると胸がズキンと痛む。あぁ、これが恋の痛みなのか……。名残惜しいというか、なんというか。



――今すぐ走り出して蔵の背中を抱きしめられたら。そんな少女漫画のような展開を想像することならできるが、実際にはできないもんだ。そう簡単にいかないのが恋。何もかもうまくいく恋なんて一体どこにあるっていうのだろうか。もどかしくて、言葉にできない。一緒にいたい、と言葉にできたらどんなにいいのだろうか。



自分の気持ちに気付いた私だが、告白してふられることを想像するとどうしても尻込みしてしまう。……謙也と蔵と私の3人の関係を、壊したくなんてない。



ずっとこのまま――…なんて、思ってしまう自分は卑怯なのだろうか。




壊したくない関係





「(さて、家の中にでも入ろうかな。あ、日吉にメールでもしてみよう。)」



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