「あ…その、ね…ちょっと階段から落ちて。」


「嘘こけや。お前…嘘つくの下手すぎや。」


咄嗟についてしまった嘘。……何で私は嘘をついているのだろうか。別に隠さなきゃいけないわけではないのに。ないのに…蔵に知らせてはいけないような気がして、咄嗟に嘘をついてしまった。すぐに見破られてしまったが。



「……俺には言えへんことなんか。」


「ち、違う――!」


「なら、いえるんやないん。後ろめたいことなんて何もあらへんのやろ?」


「…………。」


思わず、黙ってしまった。ダメだ。何か話さなくちゃ。何か、何か――。



「花子は、女子集団にリンチされた。で、バットで右足首をやられた。……事実たい。」


「………っ!!」


「………っは…今の話し、ほんまか…?」


目を見開いた蔵が、私に嘘か本当かを述べるよう目で訴えかけてきた。……私が唇をかんでいると、蔵が耐え切れなかったのか私の両肩をつかんでゆすった。



「何で…嘘、つくねん……。」


「………。」


「………花子、」


何で、なんて私が聞きたい。なんで私があんな子たち庇おうとしとんねん。分からんわ。




「………白石。花子は、お前のファンにやられたばい。」


「…………っ」


「花子を責めるのは…筋違いたい。」


「俺の……ファン?」


首をかしげた蔵に、千歳はただ事実だけを述べた。



「お前にふられたって言う女たちが集まって花子をリンチしたってこと。」


「な…!何でそれ、千歳が知ってんの――?!」


「……すまん、見てしまった。咄嗟に助けてやれんかったんは、俺の責任たいね。」


「…………そ、うやったんか。」


眉根をしかめた蔵は、私の肩から手を離すと「すまんことをしたな。」と髪の毛をくしゃくしゃにした。――その手から伝わってきたぬくもりは温かいのに、何故だか冷たく感じて。笑っているはずの蔵が泣きそうな顔をしているのは自分のせいなのか、と胸が痛んだ。


そのまま立ち上がっていこうとする蔵を呼び止めたいが、声が出ない。何の話題をすれば、蔵はいつものように笑ってくれる?

……今の私には分からない。どうしようもない。






「――白石。どこいくったい。」


「千歳には関係あらへん。」


「……いんや、関係ある。」


「……そこ、どけ。」


「こういう展開のお約束っちゅーもんなんて、俺だってわかる。――仕返しなんてお前らしくもない。」


「……っさい!」


そういうと、蔵は千歳を押しのけて保健室を出て行く。




「千歳…お前の言いたいことも分かるけど、邪魔せんといてほしい。」


「…………。」


「……花子の足首がこんなんになったのは…俺の責任や。男なら堂々と責任取りにいく。」


「……どうやって?」



「……話し合い、や。」


「……それで本当に解決するとね?」


「……わからへん。どうなるかなんて、わからへん。せやけど何かせぇへんと…気が狂いそうやねん。」



あ――…ダメだ、蔵が行ってしまう。何か、何か言わなくちゃ。何か――。









バコンッ!



「あだっ?!何すんのや――?!」


「………っ、馬鹿!」


私は蔵の頭に右足首のほうのズックを投げつけると、いらだってもう片方のズックも脱いで投げてやった。



バコンッ!



「あだ!」


「――仕返しなんて、せんでええ!誰がせぇなんて頼んだ!」


「……っ、せやけど!そないな足首なったのは俺の責任や、俺が償わなあかん!」


「いらんわ!――そんなに責任責任言うんならな、責任持って私と一緒におれや、このボンクラァ!」


そう叫んだと同時に、何故だか涙がポロポロ零れ落ちた。感情が爆発した、というのが正しいのかもしれない。

もやもやしてよく分からないが、蔵を今呼び止めなかったら自分が後悔してしまいそうで――…蔵が、遠いどこかへ行ってしまいそうで怖かったのだ。



「……はぁ。じゃあ、後はお2人さんで解決するたいね。」


そういうと、千歳はひらひらと手をふりながら出て行ってしまった。





責任




キーンコーンカーンコーン。


「(あれ?ダブル白石まだ帰ってこんのか。)」




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