ドガッ!

少女がふりおろしたバットは、私の右足首にヒットした。私は悲鳴ともなんともいえない声をだす。


「――い……っ!」


「あっはっはー無様やなあ。」


「あたしら怒らすからや。」



この人ら…マジで私殺す気だ。右足首、完全にいってしもうたなあ…なんかどんどん腫れてきとるもん。

っていうか、逃げなくちゃ。逃げなくちゃ…殺される。どうやって逃げ出そうか。そう考えているうちに、また少女が天高くバットを振り上げた。


あぁ、今度の今度こそは防ぎようがない。



「(……終わったなあ。)」

よく分からんけど、自分の脳裏に一瞬蔵の笑顔がよぎった。――こういう時に何故蔵の顔が思い浮かんだのだろうか。

蔵がいたら、心強いからか。それとも――…。






ガシッ。



「……何してったい。」


「あ……ち、とせ…君!」



「何しとるってきいとる。」


瞑っていた目を開ければ、そこには巨体の大男――…いや、千歳がいた。



「こ、れは、その……!」


「……行け。」


「千歳君、あのね……!」


「何回も言わすな。行け。」


あまりの威圧感に、少女達はバットを置いてそそくさと逃げてしまった。――なんというか、千歳に助けられてしまった。



「……千歳、ありがと。」


「花子…。こぎゃんところで何しとんね。」


「いや、あの、その…無様な様を見せてごめんなさい。」


「……はぁ。」


千歳はため息をついてから無言で私のもとにかけよると、私の右足首を触った。


「あ…っ、い……!!」


「痛か?」


「い、痛い!痛い痛い、ちょ、怪我してんのに何でひねろうとしてんのおおおお!」


「あぁ、すまんばいねえ。力がありあまって。」


私を殺す気か。



あーだこーだ言っているうちに、授業終了のチャイムが鳴った。……休み時間突入だ。



「運ぶばい。」


「え?って、ぎゃ!」


油断しているすきに、千歳が軽々と私を持ち上げた。っつーか…お姫様だっこ!あかん!あかんって!



「何、ちょ!離して!」


「その足で歩く気と?」


「いや、あの…。」


「花子が無茶するから悪い。」


あまりに千歳が頑固なので、反抗する気力すらなくなってしまった。…っていうか、休み時間だから人の視線が痛い。ジロジロ見てくる。蔵ほどではないがなんだかんだで千歳はもてるから違うファンなんかに目をつけられても困る。

……何か私の学校生活の先行きが不安すぎる。



「って、あれ?花子やない?白石。」

「え?」

「ほら、あれ!」



謙也の指差した方向を見れば、花子が千歳にお姫様だっこされている光景に出くわしてしもうた。

様子がおかしい。……なんか、花子の足首腫れてへんか?




「すまん、謙也。俺ちょ、様子見てくる!」


「あ、白石――!……って、行ってしもうたか。なんや、アイツ…なんだかんだで花子が気になるんやなあ。」


一人置いてかれた謙也はポツンと呟いた。




お姫様抱っこ





「(保健室ついたばい。)」


「(先生ー!……って、あれ?いない?)」


「(あ、なんかドアのところに紙が貼られてるたい。……出張、か。)」


「(マジかよ!)」


こういう時に出張?!私…どんだけついてないんだ。





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