「あ…雨降ってきた。傘持ってきてないや。」


「俺の入るか?まあ、1回の使用につき1回のチューを要求すr「遠慮する。」…嘘やん、冗談やん。俺らの仲やん、入りや。」


そういう蔵の言葉に甘えさせてもらって、私は傘の中に入れてもらった。……って、あれ。私半分も入れてもらってなくね?


「あれ?白石の蔵ノ介さん、何で私の体がこんなに濡れているんでしょうか。」


「はぁ?誰の傘やおもっとんねん、入れてもらっとるだけ感謝しろや。」


「……いや、あの、風邪ひく。」


「馬鹿は風邪ひかん言うやろ?大丈夫や。」


どういう意味だゴルァッ。


「はは、冗談やって。」


蔵が笑いながら傘を私のほうにかたむけた。……いや、それじゃあ逆に君が濡れちゃうでしょう。



「そんなにこっちやらんくてもいいよ。」


「はあー?なんやさっきから、ぐちぐちぐちぐちと…人のすることにケチつけんの好きやな。」


「いや、私の善意くみとろうとか思わないのか。蔵が濡れたらっていう心配してんだよ、こっちは。」


「相合傘する時点でもう濡れるの承知や。……まあ、お前も一応女やしな。濡れたら後々めんどいやろ、っちゅーか下着すけたら困る。」


「っは…!発情されたら困る!」


「大丈夫や。誰も発情せぇへんから。


「……そんな真顔で言わなくてもいいのに。」



いや、まあ私の下着見ても興奮するやつなんていないって知ってるよ。分かっててボケたんだよ、くそ…!もっといい受け返ししろよな!



「あー…そういえば、懐かしいなあ。」


「何が?」


「中1んときの初っ端らへん、俺傘なかった時花子に入れてもろたなーって。」


「……あぁ、あれね。」


そういえば、私と蔵が出会ったのも雨の日だったか。




「……あー、懐かしいわあ…。お前、あの頃から俺に惚れてたもんなあ…。」


「え?何の話し?っていうか、その言い方まるで現在進行形で蔵を好きみたいじゃんか!やめろ!」


「俺にとってはあん頃のお前は救世主(メシア)…いや、天使(エンジェル)に見えたわ…」


「え、ちょ、蔵ノ介さん。あれ?人の話しきいてる?」


「いや、わかっとんねん。お前が実は恥ずかしがって俺に想い言えんって。」


おおおおい!蔵ノ介さーん!人の話しきこうね!聞こえてるのに聞こえないふりとかやめよーね!」


蔵が喋ってもらちがあかないので説明しよう。――中学1年になりたての頃で、私がまだ蔵と喋ったことがない頃だった。

私が下校しようとしたら、雨が降っていた。



『(っげ…雨か。まあ、傘さして帰ろ。)』

ビニール傘を広げ、一歩進もうとしたとき――。後ろからでっかいため息とともに、『今日部活ないんに、何で雨やねーん…帰れへん。』という声が聞こえた。


後ろをくるっと振り返ると、そこにはミルクティー色の髪をした美少年が。



不覚にも、その少年が…蔵が、輝いて見えた。今は全然輝いているどころか腐っているように見えるが。



『………あの、』

『ん?あー…君、確か白石さん!』

『っは?なんで苗字――。』


『俺も同じ苗字やねん!もちろん覚えとるやろ、席前後やんか!』


やばい。全然知らんだ。っていうか、クラスに同じ苗字がおったことにすら気付かんだ。

…こんな失礼なこと、本人には絶対いえへんなあ。



『あ…う、うん。』


『どないしたん、俺に声かけて。何か用事でもあるん?』


『あー…いや、傘。貸すよ。』



『……え?』


『せやから、傘。私こっから歩いてすぐんとこの駅やし、君困ってるみたいやから使ってくれてかまわんよ。』


すっと傘をとじて、同じ苗字の白石君に傘を差し出した。



『……え、い、いや。受け取れへんよ、それ白石さんのやん。』


『いや、白石君使ってくれてかまわんって。』


『いや、初対面やのに…。』


『いい。貸す。』


『なら、相合傘にしよう。』


『……っは?』


あの時も、こんなふうに蔵と相合傘したなー…。初対面で相合傘って!まあ今思えば懐かしい。

あの日あの時、雨が降ってなかったら――…今、きっとこんなふうに歩けてなかったかもしれんなあ。人と人のつながりって凄いわあ。




「あ、ここらへんでええわあ。蔵ノ介のくせにありがとう。」


「なんやそのお礼の仕方。ほんまに感謝しとるんなら、チューしてけ。


「さっさと帰れ。


明日もあさっても、明々後日も。蔵とこうやって一緒に帰れたらいいのにな、と本人には絶対に言わないがそう思ったある雨の日の帰り道のことであった。








雨の日は相合傘





「(へっくしゅん!っぶはー…なんや、花子傘にいれるんやなかった。風邪かなあ…。)」




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