不意打ち
「……すまんなあ、時間遅くなってもーて。」
「ううん、大丈夫だよ。じゃあ行こ。」
――部活も終わり、蔵との帰り道。…蔵は、どんな気持ちでいるのだろうか。そんなの分かろうと考えても分かるはずがない。
「(……はぁ、私がこんな顔でいたらダメだ。)」
これまでの経験とかそういうのから考えて、どうやら私は考えていることが態度や顔にでてしまうらしい。…優勝できるかな、なんて部長の蔵にきくのはなんか失礼だ。
蔵はこんなに一生懸命練習を頑張っている。――それはもう、並半端ではない。
中学生がやるようなトレーニングの領域じゃない。…蔵いわく、『才能がないから努力するしかないんや。』なんて笑ってたっけな。
…そうだ。テニスがうまい人みんなが、努力なしでこれたわけではない。蔵だって、死ぬほど練習をしてきた。……きっと、これまでの努力が結果につながるはずだ。
自分が信じてあげなきゃどうする。
「……もうそろそろで引退やなー。」
「そうだね。…なんやかんやで楽しかったね。」
「おー、そらぁ楽しかったなあ。謙也はアホやし財前は毒舌やし銀はテカテカやしユウジはホモやし…なんや、個性的すぎる集団やったよな。」
そういってケラケラ笑う蔵。いや、あんたも負けてないけどね。っていったら、蔵に頭をぐりぐりされた。…あでで。
「……蔵は、引退したらどないすんの?」
「ん?どないすんのって、どういう意味?」
「あ、進学って意味。どこいくのかなーって。」
「……んー…まだ確定しとらんけど、一応四天宝寺の高校行こうかなって感じ。」
「じゃあまた男子テニス部入るつもり?」
「あ、ばれてもーたか!まあ、どこ行ってもテニスだけはやめへんかな。…それに、四天の高校いったらチームメイトも何人かはおるやろーしな。」
…記憶にあんまりないが、謙也とユウジあたりは高校も四天宝寺にするてきなこと言ってたっけなあ…。小春はもっと上の学校を狙うらしいが。ユウジが泣き喚く姿がなんだか頭に思い浮かんで、笑いそうになるのをこらえた。
「で、聞いといたお前はどうすんのや。」
「んー、一応蔵と同じ。」
「……ふーん…。」
少しの間があく。…なんだ、この静けさ。何考えてるんだ、蔵。
「え、どないしたん、蔵?」
「……ん。唐突やけど花子、マネージャーせぇへん?」
「……え?」
「せやから、高校行ったらマネージャーせぇへん?今までのお前見てきて分かったけど、男に媚びうるようなやつちゃうし…逆に媚うられるようなタイプでもちゃうしな。」
「え、何それ。失礼だな、おい。」
「あっはっは!せやかて、ほんまのことやろ。人生で1回でも男に言い寄られたりしたことあるんか?」
「そ、それは――!」
まったくございませんがね!だからってなんでそんなこと言われなくちゃならないんだ、何だか自分が惨めなんだけど。
「……まったくないけど。」
「ほら、適任者や。決定やな。」
「でもまだ四天の高校行くか決めてないのに――!」
「っは…俺が決めたんや。嫌っちゅーてもつれてったるからな。」
そういって微笑むのは不意打ちじゃないですか。…やだな、嫌っていってもつれてくとか。もうどこへなりともつれていってください。地平線の彼方まで一緒にいきたいぐらいだ。
「(……花子と一緒におりたい口実、なんて言えへん、絶対。)」