一体日吉はどうしたというのだろうか。……日吉はいっこうに離す気配を見せない。抱きしめられた体がギシギシいっている。……ちょ、強く抱きしめすぎだろ。


「………先輩は――白石さんが、好きなんですか?」


開いた口から聞こえた言葉は、あまりにも唐突すぎて。逃げようにも逃げれず、私はどう答えればよいやらと迷う。


「………ひよ、」

「なーんて…冗談に決まってるじゃないですか。」


そういってぱっと離された腕。目の前で微笑む日吉だが、目が今にも泣きそうだった。幼馴染だから分かる。…日吉が今、傷ついているって。

分かっていて、彼が満足するような言葉をかけてあげることができない自分が憎い。



「そろそろ、試合なんで。」


「……ん。」


「しっかりしてくださいよ、花子先輩。」


そういって日吉は部室をでていった。――誰もいない部室、そこに残されたのは日吉のぬくもりだった。……あんな顔をさせるつもりじゃなかった。

なんて答えればよかったのだろうか。白石のことを"好き"だなんて正直に答えることも、否定することもできない。



――日吉が私を、試していたことなんてアホな自分でも分かる。




「……はぁ。」


本日、何度目かのため息をつきながら私はまたドリンクをつくりはじめた。……なんだか、日吉と顔を合わせづらい。


せっかく久しぶりに会えたっていうのに、気まずい雰囲気にしてしまったのが何だか申し訳なくなってくる。……もっと器用に生きれたら、とさえ思う。


ガチャッ。


「お、花子かあ。」


「あ、蔵。」


「おーおードリンク作っとるんか。……って、なんやここ!床にアクエリこぼしたやろ。」


「あ、ふんじゃった?どんまい。」


「どんまいっておま…!もうええわ、くっそー…。」


運悪く蔵は床にばらまいたアクエリの跡を踏んでしまったらしい。ぎゃーぎゃーうるさいがほうっておこう。足元に注意しなかったほうが悪い。



「……なあ、蔵。」


「ん?」


「……日吉になんであんな言い方したん?」


「あんな言い方…?俺は事実を言ったまでやろ。」


そういうと、蔵はコールドスプレーをとって足やら腕やらに吹きかけている。ちょ…部室内でやるな、外でやれ。においが充満するだろーが。


「…でも、あんな言い方したら日吉だって誤解するじゃん。」


「……っはん。あんなキノコヘアーの男に勘違いされてもどってことないわ。」


こっちがどってことあるわ…!もー…そんな態度とったらダメだからね。」


って、あ!あいつ、何事もなかったように部室でていこうとしてる!何だよ、返事ぐらいしろよなー。





「………けや。」


「……え?」


「……日吉君を、試したかっただけや。」


そういうと、蔵は部室をでていってしまった。









「(日吉君が花子のこと好きか…試したかっただけや。)」




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