幼馴染以上
ツルンッ。
手元から落ちたドリンクの入った容器は、無残にも床に落ちてどんどん液体を漏らしていく。ぎゃあぁっぁああ!やってしまった、ドリンクこぼしちゃった…!
あわててドリンクを拾って、名前を確認。
"忍足謙也"
よし、セーフだ…!可愛そうだから一応洗って新しいの入れてあげよう。はぁ…でも床汚しちゃったなあ。そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえてきた。
「……何してるんですか。」
「……ひ、よし…。」
「……俺も手伝います。30分くらい試合時間空くんで。」
そういうと、日吉は近くにあった雑巾で床を拭き始める。……喋るなら、今がチャンス…だよね。
「……ごめん、疲れてるのに。」
「いえ…貴女がおっちょこちょいなのは今に始まったことではないんで。」
「え、何それひどい。」
「間違ったことは言ってませんよ。」
そういうと、日吉はアクエリにまみれた雑巾を洗面所までいって絞り始める。
「……あの、さ、日吉、」
「……さっきのこと、怒ってますか。」
「……え?」
「さっきは…つい、かっとなって…白石さんの胸倉を掴んでしまって。……先輩、怒ってますか?」
日吉が不安そうな顔でこちらを見た。私は首をぶんぶん横にふって、「そんなことないよ!」という。すると、日吉がほっとしたように微笑んだ。
「……よかったです。嫌われたかと思いました。」
「ううん。私もなんか…どっちつかずな態度とってごめんね。でもこの怪我は蔵が悪いってわけじゃないんだよ。」
「……。」
「……バットでやっちゃったっていうか…その、」
事実をつげていいのだろうか。日吉に告げても、大丈夫なのだろうか。そんな不安を抱えながらしどろもどろに喋っていると、日吉がこちらへ歩み寄ってくる。
え、え!
「え、え、あの、ひよ――」
「――先輩が、言いにくいことなら俺は聞きません。それに、白石さんが悪いんじゃないっていうならそれを信じます。」
「………え、」
日吉はぐっと私の腕をつかんでぎゅっと抱き寄せた。大きな胸板、懐かしい日吉の香りがする。……私は日吉の顔を見ることすらできなくて、ただ、ドリンクがこぼれて染みになっている地面をながめていることしかできなかった。
「(え?何で日吉に抱きしめられてんだ私ィイイ!落ち着け、私ィイイイ!)」