好きだと認識
「……すまんかった。」
それだけいうと、蔵は私の隣に座ってただ頭をなで続けた。涙がポロポロと落ちていく。だけど止まらない。
――怖かった。
喧嘩をかったのは自分なのに、後からになって怖いと思った。あの場に千歳がこなかったら…私、どうなってたんだろ?病院送りになっていたかもしれない。いや、運が悪ければそれ以上のことになっていた。
こうやって、蔵と話すことができなかったかもしれない。…こうやって、会話できることの幸せや、いろんな感情がうずまいてあふれ出した涙が止まらない。
「………ほんまに、すまんかったな。」
何で蔵が謝るんだろうか。
そんな悲しい顔、しないで。そういいたいのに嗚咽がひどくて言葉にならない。
「………俺、ちょっと正義気取っとったな。漫画とかでおるやん、いじめられっ子のために頑張るやつって。」
「…………っ、」
「……守りたいやつのために必死こいて頑張るやつ。あれ、かっこええよな。俺ほんま憧れんねん。」
蔵らしくない。弱々しい声。誰もいない保健室に響くのは、私のしゃくり声と蔵の途切れ途切れの声。
「……でもな、いくらかっこええっちゅーても…やっぱ守りたいやつに迷惑かけたり、心配かけさせる時点でヒーロー失格やな。」
「……く、ら……。」
「――花子が、行くなっていうならいかん。仕返しとか話し合いしてほしないんなら、俺はせぇへん。」
「…………」
「せやけど、もう二の舞はごめんや。――俺が花子を守る。余計なおせっかいやって分かっても、これだけは…ゆずらへんから。」
そういって私を抱きしめる蔵の腕の中は暖かかった。
――あまりにあたたかくて、私は蔵の腕の中で声を出して泣いてしまった。蔵の優しさが痛いほど伝わってきたこともあるが…何より、自分の気持ちに気付いてしまった。
あぁ、私はどうやら彼のことが好きみたいだ。
それは友達としてではなく、それ以上…異性として見てしまっている。今までの"好き"とは違うこの感情。説明しようにも説明できない。
ただ…大好きだ。蔵が、大好きだ。
「(今日授業終わったらすぐに接骨院いくで。)」
「(え、何で…?)」
「(アホか!怪我なめたらあかんのやで、俺から見たら捻挫に見えてもほんまは靭帯きれとるかもしれへんし、骨折しとったりする可能性もあるやろ。)」
「(は…はぁ。)」
「(お優しい蔵様やからなあ。一応お前のこと、心配してやっとんのやで。)」
「(………何か、複雑。)」