こない救世主
「ねぇ、あんたさ、本当なんなわけ?」
「何でいっつも白石君とおるわけ?」
「苗字かぶっとるからって調子こいとんの?それぐらいの共通点でしゃしゃっとんなやな。」
白石花子、ピンチです。なんか呼び出されました。
しかも、校舎裏って!またべたな!…まあ、そのべたな展開をよんでいてホイホイきちゃった自分もどうかな…って気もするけど。でもさ、地味に嫌がらせされてたんだよね。
筆箱がなくなったり、ジャージのズボンが破れていたり、バスケのボールぶつけられたり。しかも全部犯人が分からないし、あまりに地味なことすぎて周りに相談しなくてもいいかな、と思っていた。が、こうも簡単に犯人が自分から名乗りでてくれるとは…。
この際もう言ってしまいたい。
「なあ、何?何も反応せぇへんわけ?」
「あっはっは。やっぱ白石君おらんと怖いんよな?結局ただのあまちゃんってことや。」
「白石君の後ろで女の子ぶっとんな。」
女子の集団はぱっと見て、5人。…全員ギャル。化粧ばっちりっていうか、度がすぎていて目がパンダ…いや、昔でいえばヤマンバみたいになっている。
やだよー、ママン。
偏見はいけないっていうけど、こんな怖い人に絡まれちゃったら私…私!
「どりゃぁぁぁああぁぁああ!」
「きゃっ?!」
私、とび蹴りくらわしてしまいそうです!(マジでむかつく!がっぺむかつく!」
「あ…あんた何さらすの?!」
「それはこっちの台詞じゃクソボケェ!蔵と絡んでるだけでなんで私がこんな目にあわんないけんのや!!」
「じゃああんたが絡まんとけばええ話しやんけ!」
「はぁ?あんたらが絡まんのが悪いんやろ?もう私この際言っちゃいます。ぶっちゃけます、君たちいわば負け犬です。」
「「「「「な……っ!」」」」」
火に油をそそぐ、というのはこのことを言うのだろうか。彼女たちの顔がみるみる真っ赤になっていく。
…でも言いたいことは、言ってしまいたい。
「蔵と一緒におって何が悪いわけ?そんなに蔵が好きならアタックなりアピールなりなんでもすればええやろ。それを影で集団でコソコソこそこそとして、悪口いって、それで傷のなめあいしとるだけやろあんたらは。」
「な…何言うてんねん!」
「うざっ、何様や!」
「俺様や。…じゃない。違う。まあ私が言いたいんは、好きならアピールすればええっていう話し。」
「何言うとんねん、白石君とあんたつきあっとるんやろ…!」
「……っは?」
予想外の言葉に思わず目が点になってしまった。……私と蔵が、付き合っている?っは?どこからそういう情報が入ったんだ。
「何や…その噂。」
「今更しらきろうとしたってこっちはわかっとんねん!この前だって一緒に相合傘して下校したり、白石君が休んだ日は白石君ち行ったりしたやろ!!」
「あぁ、それは……。」
「それに、部活のぞいたり授業中白石君と喋ったりしとるやんけ!それのどこが付き合ってないっちゅーねん!!」
興奮したのか、女子の集団の一人が私のえりもとを掴んでぐっと持ち上げた。
「〜〜〜!」
「あたしらかてな…アピールせぇへんかったってわけやないねん!好きやのに、気持ちが通じんかった。ふられたんや、あたしら全員な!」
やばい、苦しい。息が、できない。視界が薄れていく。ぼやけていく。
ダメだ、こんなところで負けてちゃ。
ドガッ!
「い……っ!」
「ゲホゲホッ……っ」
私は掴みかかってきた女の子の腹部に思い切り膝でけりをいれてやった。女の子相手に膝でけりは…とは思ったが、こっちは命がかかっている。
「な、にすんねん!」
「それはこっちの台詞や!死ぬところやんけ!」
「死ねばよかったんや…!あんたみたいなんは!」
「あたしらのダチに何さらしてくれとんねん!」
「もう許せへんわ!」
――どうやら反感をかってしまったらしい。こういうシチュエーションって、あれだよね。こういう時にヒーローみたいな感じで王子様がやってきて、かっこよく私を助けてくれるんだよね。あれ?王子様、どこ?
「(しまった…今、授業中や。生徒とかが通るはずないやん…。)」
やばい。自分の置かれている立場がだんだん分かってきて、冷や汗がだらだら流れる。よくよく見ると、数人野球とかの授業で使うバット持ってるんだけど。
それで叩かれたら結構ダメージでかいだろうなあ。
それだけは避けたい。
「(逃げるが勝ち!)」
「あ!逃げ出したで!」
「追いかけよ!」
――こういう時に、自分がどれだけ運に見放されているかが分かった。
ガッ!
「(石……?!)」
少し大きな石につまずいて、そのままズベシャッと思い切りこけてしまった。足がすりむいた。肘もジンジン痛む。
「……残念やったなあ?」
「おしまいや。」
そういうと、女子達は私の両腕を掴んで、無理矢理立たせる。
「ちょ!離せ、」
「……あたしらを馬鹿にしたこと、後悔せぇや。」
そういうと、私は思い切り腹部をけられた。その衝動で思い切り後ろに転げてしまう。かっこ悪い。一体何回こけるんだ、私は。
ガッ!
集団の一人がローファーで私の右手を思い切り踏みつける。何や…やっぱ、王子様とかスーパーマンとか期待するんやなかった。
少女漫画の読みすぎやったようや。
「死ねや。」
そういうと、少女はバットを思い切り振り上げ、おろした――。
「(あれ?白石、うっさい方の白石はどないしたん?)」
「(なんか下痢言うてトイレ走ってったで。)」
「(……最低や。)」