「……花子先輩、お手を。」

そういって白馬に乗った王子様の格好をした日吉がすっと私に手を差し出す。私はそれにこたえ、手をさしだすと日吉はいとも簡単に私を持ち上げて馬の上にのせた。――ひ、日吉…?あれ…?なんか、近くないか…?


「…あ、あのー…日吉?顔、近くない…?」

「…………、ダメ…ですか?」

「だ…ダメっていうか、その、上下関係が大切っていうか私と日吉は先輩と後輩であの、ちちちちかああああい!」

「俺――もう我慢できません、先輩――!」

ひ…日吉に襲われる!


氷帝男子テニス部




日吉イィイイイイイイィイイイイィ!

「うわっ?!何やお前いきなり起き上がって!」

――目が覚めると目の前にいたのはエプロン姿の忍足侑士だった。…あぁ、あれは夢だったのか。後ほんの数cmでキスしそうだったのになぁ。本当おしかったぜ。

「…じゃあ、もう1回寝るわ。おやすみ。」

「おう、おやすみ…じゃないわ!おま、寝ぼけんのもたいがいにせぇよ!」

「でももう1回寝たら私王子様の日吉とキスできるかもしれないし。」

「…おま、何いかがわしい夢見とんねん。せやから寝てる時の顔ニヤニヤしてたんか。」

「え…?!嘘、マジで?!」

「そんなことで嘘つかへんわ。」

ええええ…?あまりに幸せすぎて寝てる時ニヤニヤしてたのかよ私…。いやでも、あんな幸せな夢みたらあははーうふふーな顔になっても仕方ないよ。むしろ自分を誇りたい、さすが私。



「ってかお前二度寝したら朝食捨てるからな。」

おはようございます、忍足先輩。今日も香ばしい朝食のにおいがしますね…!」

「……はぁ。」

すっと起き上がる私を見て、頭をいたそうにする忍足。――まあ、こんなことは日常茶飯事で、こうやって毎朝学校のある日は私を起こしに忍足はやってくる。しかも朝食まで作ってくれるのだ。おま、どんだけ暇人なんだよ。って1度本音をぽろっともらしてしまったところ、1週間くらい私の朝食がパンの耳だったのでもう二度と言わない。ごめん、忍足。朝食ってめちゃくちゃ大切なものだって実感したよ。

まあ、そんな忍足だが中学の初めから私たちがずっとこうやっていたわけではない。中学初め、さすがに家から氷帝学園まで通うのに無理を感じた親が私に一人暮らしをさせることを決意した。

――これまで親に起こしてもらって手作りの朝食をたべていた私にはとても酷なことだった。

そんなある日、まぁ色々あって氷帝男子テニス部マネージャーになって、どこまでも家の道のりが同じ忍足をストーカーと疑い、「あなた私のストーカーですか。」と言ったところ「お前こそ俺のストーカーやろ。」と言われたことが今でも印象に残っている。

…まあ、まさか忍足の家と私の住んでいるアパートが隣同士だとは思わなかったけど!


それ以来、何かと忍足は私の家に来るようになった。っていうか、私は鍵を閉めないアウトドアな人だから忍足が自由に遊びにくる。

正直邪魔で仕方ないが、忍足が毎朝こうして来てくれなかったら私は間違いなく単位が足りてなかったと思う。絶対寝坊してたもん。その点、忍足には少なからず感謝している。



「で、忍足今日は何作ってくれたの?」

「今日はご飯と味噌汁と目玉焼きや。」

「………質素。」

うるさい、黙れ。俺もちょっと寝坊してもーたんや我慢しろやそんくらい。」

「はーい。」

なんだかんだで忍足が作ってくれる朝食はおいしいと思われる。









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