『あんたさ、調子乗ってんでしょ。』
『先輩だかなんだか知らないけどさ、私たちもそこまで遠慮してらんないのよ。』
『これは警告よ。今すぐテニス部のマネージャーをやめて頂戴。』
『いやいや何君たち。いきなり現れたかと思えばマネージャーやめろ?っは、やめれるもんならやめてるわこの雌猫ども。』
『な…何よあんた…!』
――男、宍戸亮。ただいま部活へ行く途中、田中花子が女子軍団に絡まれてるところを発見。ど…どうしよ、どうすればいい…!あぁ、こういう時跡部とか忍足とかいたらかっこよく助けにいくんだろーけど、やっぱ女こえぇ…。
壁の後ろにかくれて見ていると、花子の態度が気にくわなかったのか女どものリーダーと思われるやつが花子の胸ぐらを掴んで頬を思い切りひっぱたいた。
パァンッ!!
「………っ!」
『いった!親にもぶたれたことないのにィイイ!』
『っ、あんたなめてんの?!』
あぁ…花子もあんななめた態度とらなきゃいいのに。そう思っていると、女子どもが花子を無理やりひきずるようにしてこっちへ来る。
「(や…やべぇ!見つかる!)」
あわてた俺は思わず体育館倉庫の奥に隠れた。ボールとボールの隙間からかすかに外が見える。……って、あれ?なんかあいつら、こっち来てね?気のせいか?
『そこで反省するといいわ。』
『ちょ、タンマ――!』
『何?土下座でもする気になった?』
『いや、あの、マジで勘弁してください。今日6時からラケットモンスターがあるんです。いつも部活さぼって家ダッシュして見てるやつなんで、今日はどうか見逃して『なめてんじゃないわよ!』
そういうと、女の一人が花子の頬をもう一発ひっぱたいた。
パァンッ!
『いってぇええええ!』
『――今晩はトイレも食事もできないわね、可愛そうに。』
『女の子が失禁だなんてはしたないわね。恥をかけばいい。』
そういって、女どもは体育館倉庫を思い切り閉めると外側から鍵をかけた。
『って、嘘、マジで?マジですかー?!あのー聞こえてますかー!あのー!てめぇら全員覚えてろよおォオオ!後で跡部に全部ちくるからなああぁぁあああ!』
「(……コイツは小学生か。)」
2発も頬をひっぱたかれたのだから、しおらしくなると思いきや――。こいつ、かなりキレている。まあ、そりゃ怒るのも無理はないが、もう少し落ち込むとかさあ…。
「(まあ、花子らしいけど。)」
っていうか、体育館倉庫に閉じ込められた。絶体絶命のピンチだよな、これ。
女の嫉妬は怖い
「……くそ、あの女どもめ…後で覚えてろ、跡部っていうボンボンが私の背後にいることを知らしめてやるからな…。」
そんなことをぶつぶつ呟きながら、花子は何やら紙とシャーペンを取り出して何かをメモしている。……コイツ、随分余裕だなあ。
「……おい、」
「っぎゃ?!」
「……お前、何してんだよ。」
「………え、それこっちの台詞なんだけど。宍戸なんでボール入ってるかごの後ろに隠れてんの?もしかして私のストーカー?」
「大丈夫だ、それは絶対いねぇから安心しろ。」
「ですよねー!」
そういってヘラヘラ笑う花子を見たらなんだか安心した。…なんか無人島に持っていくとしたら花子持っていったら結構心強い気がする。こいつなら素手で魚とってきそうだし。何か、変な安心感あるんだよなあ。
「……っていうか、もしかしてさっきの全部見られてた?」
「……あぁ。」
「うっわ、マジか。恥ずかしいなあ。」
「ああいうの、しょっちゅうなのか?」
「まあね。でも久しぶりだよ、閉じ込められるとか。」
「………わりぃ、助けなくて。」
あぁ…マジで俺激ダサだ。あの時助けてやれば…なんて、今更考えてもどーしよーもねーことなんだけどよ。
「………ん。」
「………っは?何だその手は。」
「見てたんでしょ?閲覧料金いただきます。」
「馬鹿か。」
……次の返しに"そんなことないよ宍戸!"とかそういう反応を期待してしまった自分が恥ずかしい。ひじょーに恥ずかしい。……こいつにこういうシリアスな展開を求めるのはやめとこう。うん。