「なーなー花子ー」
「…………」
「なーなー」
「…………………」
「なーなー、花子、なーな「あああ、もう何?!何で審判してる時に話しかけんの?!」
くるっと振り返ると、ニコニコと人なつっこい笑顔をうかべている裕次郎。…何でそんな可愛い笑顔なんだよ!意味わかんね!
「やーっとこっち見たさー」
「………」
「俺が審判かわる。やーは、俺の隣にいればいいさー」
「え、ちょ……!」
私の腕をぐいぐい引っ張ってイスからひきずりおろすと、裕次郎が審判をし始めた。…えぇ、何だよこの急展開。何で立場が逆転してんの。っていうか、それじゃあ私いる意味なくないか?
「………一体何がしたいの、裕次郎」
「ん?やーと喋りたいだけさー」
「……はぁ」
「それに、いなぐーに審判やらせるなんて可哀想やくとぅ」
「あ、ありがとう…」
何だろう…。比嘉にいたら私って何なのか分からなくなりそう。こんなに女の子扱いされるの初めてなんだけど。氷帝にいる時と全然違う…!何このいい子ちゃんたち!私なんで比嘉にこなかったんだ、馬鹿野郎。
「あ!裕次郎抜けがけかー!」
「っげ…凛」
金髪のロン毛の人がこっちにやってくる。…また1人増えた。なんて思っていたら、金髪の人に正面からぎゅっと抱きしめられた。
「?!?!?!?!」
「り……凛!何してるだばぁ!」
「メイドに萌えを感じるのさー…うじらーさん…」
わけが分からず目を白黒させていると、慌てた裕次郎がイスから立ち上がって私と金髪の人を引き剥がす。
「駄目!凛は、駄目!」
「はぁ…裕次郎、男のやきもちは醜いだばぁ」
「で、でも凛は駄目さー!絶対に!友達でも怒るどー!」
……ああ、もうわけがわからん。っていうか、コートプレイヤーの選手が困った顔してるじゃん…。どうすりゃいいんだよ、これ…。
「(あぁ、もう暑いし溶けちゃいそう…)」
目の前で繰り広げられている光景を、いっそないものにしてしまいたい…。みーんみーんってセミの声がする。
夏はやっぱり暑いなあ…。って、私かれこれ暑いって何回言ってるっけ?
「(水分補給しよう)」
とりあえず、水でも飲んで頭を冷やそう。…ついでにこの2人の頭も冷やすか。私はそう考えた結果、2人の腕を掴んで強引に水飲み場のほうへ連れて行くことにした。審判は、適当にそこらへんにいた1年生の経験者の子に頼んだ。
…もう、誰かこの2人を何とかしてくれよ。