「………はぁ、はぁ…」
「っふ…俺の勝ちや」
そういって誇らしげに笑みを浮かべるのは忍足。――脱がしにかかる忍足に、抵抗をする私の一騎打ちは忍足のほうが一枚上手だった。
あっさりとシャツやらズボンやらを脱がされ、メイド服を着させられ、カチューシャまで頭に装着させられた。
「ほな、これ持って」
「……何でほうき」
「メイドっちゅーたらやっぱお掃除するイメージやん。ほら、持った持った。ついでに部室綺麗にせぇーや」
そういうと、忍足に無理矢理ほうきを持たされる。……もうやだ、今すぐお家に帰りたい。こんなの、他の誰かに見られたら――。
ガチャッ。
「「え」」
「……あ!え、あ、え?!メイド…?!」
何で間の悪いときにきたんだい?甲斐裕次郎君。私は今だけものすごく君が憎いよ。まあ、ことの元凶は忍足なんだけど。
「や、やややややー!」
「え。どうしたの、裕次郎君」
「や、やー、やや、」
「いや、"や"しか言われてもわかんないんだけど」
そういうと、裕次郎君は大きく深呼吸。隣にいる忍足は何故かニヤニヤしている。何だお前その顔、殴るぞ。
「やー…花子、だよな?」
「え?あ、うん…そうだけど」
「めちゃくちゃうじらーさん(可愛い)!」
「え?うじらーさん?」
「あ…わかんねぇか、悪い。可愛いってこと!」
そういわれ、見る見る顔が赤くなっていく。――か、可愛い?!可愛い、だと?!
「(どうだ、忍足!今の言葉を聞いたか!)」
ちらっと忍足のほうを向けば、忍足と思われる人物はすでにいなかった。
あ い つ !
どや顔してしまった自分が恥ずかしい。穴にあったら埋まってしまいたい。
「と、とにかく!裕次郎君、ありがとね」
「おう!本当のこと言っただけさー」
そういうと、裕次郎君がぎゅっと抱きついてきた。うぉおおおお!何か、何か抱きつかれたんだけどおおおお!
じろちゃんに抱きつかれるのはしょっちゅうだからあれだけど、初対面!初対面なのに!
「ちょちょちょ、裕次郎君!タイム!」
「何が?」
「し、心臓が!私の心臓が止まる!」
「……やーだ、離さなーい」
そういって意地悪く笑った甲斐裕次郎。……忍足助けにこいやあああっぁああ!あいつ、マジでどこいったんだ。
「……あの、裕次郎君」
「裕次郎」
「じゃあ、裕次郎」
「何さー?」
「はなれよっか」
「だから、やだ」
「……しつこい!」
「花子のがしつこい」
「……仲いいとこ悪いけど、甲斐。離れてやり」
「忍足ィイイ!助けて、へるぷみー!」
救世主がやってきた!けど、何で背後には岳人と宍戸がいんの?まさか、今いなかった間、よびにいってたな――!
「待ってろ花子!はよ花子離さんかい、花子抱きしめていいんは俺だけや!」
「違うから!何ほらふいてんだ、口からでまかせいうなあああ!」
忍足に頼った自分が悪かった。心からそう思う。