「――花子たちは行ったようだね。」
幸村は花子と真田が遠くへいくのを見届けてから俺たちのほうを見た。――とにかく、怖い。なんだこの威圧感。
…氷帝の部員どものツラをおがめば、
どいつもこいつも固まっていた。
(一部例外で寝ているやつはいるが。)
「まあ、君たちだけを残したのはしておきたい話しがあるからだ。」
「……しておきたい話しだと?」
「あぁ、ただの痴話事程度だと思ってくれてかまわないよ。俺も花子も相思相愛だから、ぜひ君たちに話しを聞いてほしいんだ。」
「「「「「「「(……凄い勘違いだ。)」」」」」」」
誰もがそうは思ったが、口にはださなかった。――いや、言ったらその瞬間に絶対に殺される。花子がこの場にいるならまだしも、いないとなったら幸村も手加減などしない。
「……まあ、リラックスして聞いてかまわないよ。俺が花子を大切にしてる理由だから。」
そういって微笑んだ幸村の表情は、本当に彼女を愛しているように感じられた。
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――俺が部活で倒れたとき、救急車で運ばれたとき、
それを聞いた花子は息をきらして駆け付けてくれた。
本当に馬鹿みたいに心配してくれて、
俺が「テニス出来なくなるかもしれない。」っていったら
初めて彼女は俺の前で泣いたんだ。
――木登りで落っこちても泣かなかった花子が。俺と喧嘩しても泣かなかった花子が。いつも笑っていた花子が、泣いた。
俺が泣かせたんだ。
びっくりしたよ。絶対に泣かないと思った。花子なら笑いながら「大丈夫!」なんて言ってくれるって思ってたから。…期待してたから、予想外の展開に頭が追いつかなくて。
花子は俺の手を震えながら握って、ただ小さく、
今にも途切れてしまいそうなか細い声で「…生きてて、よかった。」なんて呟いたんだ。
……馬鹿げた話しだけど、そんないつもと違う彼女の姿に俺は惚れたんだ。
本気で心配してくれて、本気で泣いてくれる。
たった一人の大事な大事な幼馴染。
いつも馬鹿みたいにはしゃいだり、言葉遣いがめちゃくちゃだったりだけど、俺はそんなところもひっくるめて花子が好きなんだ。
…本人は、俺の"好き"を受け流してるけどね。
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「花子を自分の手元において置けないのは不安だし、君たちが花子を傷つけてないか否かは俺にはわからない。
けど、俺は跡部を、君たち部員を見てそれを見込んで花子をマネージャーにさせたんだ。だから、彼女を安易に傷つけたりしないでほしい。……まあ、馬鹿なことしたらハリセンなり釘バットでなり殴ってやればいいよ。
それは飴と鞭だ、本当は俺がやってあげたいぐらいだけど考慮してあげる。
まあ、俺がとにかく言いたいのは
花子のお世話を押し付けたのにも関わらず、やってくれてありがとう、って伝えたかったんだよ。」
そういって、幸村は微笑んだ。