「花子ー好きやでえ!」
そういって抱きついてくる白石蔵ノ介という男は公然猥褻の容疑で捕まったほうがいいと私は思う。…あぁ、ただでさえ夏で暑い時期なのに白石の体温で更に体が暑くなった。…マジでどいてくれないかなあ。
そう思っているとたまたま通りがかった千歳が「白石きもっ。」と呟いたのをきっかけに、ぷんぷんに怒った白石が「なんやとー、千歳ぇ!」と言いながら千歳に喧嘩をふることによって何とか離れられたので、私はこっそりとその場から逃げさる。
…そんな日々が繰り返され、私の心も体もいろんな意味でボロボロだ。
女子の視線は確かに怖いが、最近の女子の私の目はというと「可哀想」といった同情のまなざしだ。……最初は白石に好かれて「羨ましい」だの「かわれ」だの言われたが、白石のエスカレートした行動によってそんな言葉もどこかへ吹き飛んでしまったのだろう。
『……田中さんって、ある意味可哀想だよね。』
『確かに白石君…かっこいい、けどさ…ねぇ?』
『あこまでされたら私ぶん殴っちゃうかも…』
なんて言葉が聞こえた日には、なんともいえない感情が心の中でふつふつと芽生えた。…なんで私ばっか。
はぁーっと溜め息をつきながら机に突っ伏すると、同じクラスの金色と一氏がニヤニヤしながらやってきた。
「あっらー?田中ちゃんどないしたのー?」
「あー…金色かぁ、まぁ…いろいろね」
「どうせ白石やろ。ほんま白石は田中好きやからなー」
「ほんまほんま!」
「………マジ勘弁してください、本当…。」
そういってまた溜め息を吐くと、二人は顔を見合わせてこんなことを言った。
「…でも、田中ちゃん蔵リンのこと好きなんでしょ?」
「………っは?何で?」
「え?な…何でって、ねぇ?ユウ君、」
「な…なぁ、小春?」
戸惑う二人。……どんな勘違いしてんだ。むしろこっちは迷惑してるっていうのに…好きだなんて、そんな感情。
「…好きなわけ、ないよ。」
そう呟いて私は机に再度突っ伏した。
気持ちに正直に
そんなある日の昼食の時間、いつものように友達と一緒に屋上で弁当を食べようと席を立ち上がろうとした瞬間だった。
「あ…あの、田中さん!…ですよね?」
そういって私に声をかけてきたのは少し猫目でウェーブのかかった茶髪のロングの髪の毛にカチューシャをした可愛らしい女の子だった。
うわぁー…可愛い。こんな子いたっけなあ?
「あ…は、はい。そうですけど何か?」
「あ…あの、ですね!ちょっとついてきてくれますか?」
そういって私の手をとると、その女の子は女のわりには結構な力でグイグイ引っ張ってくる。あだだだだ、もう少し優しくリードできないのか!
「……で、話しって?」
つれてこられたのは図書室だった。…といっても、図書室でご飯を食べる生徒はいないのでこの時間は誰かくるほうが珍しいだろう。
「あ…あの、ですね…私、白石さんが好きなんです」
「……へぇー…。って、えぇぇええぇ?!」
思わず声をあげてしまう。そ…そりゃ白石がもてるのは知ってたけど、えぇぇぇええ?!いまだにあんなやつのことが好きな子がいたんだ!
へぇーへぇーと思っていると、その少女は両手を合わせて私に頭を下げてくる。
「あ…あの、田中さんに協力してもらってもいいですか?」
「……っへ?え、あ…ぁー……」
なんだろう。なんだか言葉がでてこない。胸がぐちゃぐちゃする。ぐちゃぐちゃって表現気持ち悪いなあ。でもなんだか、今その表現が一番ピッタリとくると思うんだ。
「……ん、いいよ。」
そういうと、目の前の少女は少しビックリしたように目を見開いてから「ありがとうございます」と微笑んだ。
――…白石も、さ。私みたいなノーマルな女よりこういう美少女のほうが釣り合うと思うんだ。…それに、白石に彼女ができたら私もいつもの日常に戻るわけだしさ。
「(…これで、全てオッケーなんだよね?)」
だけど…なんだか心が痛いんだ。
.
..
...
「花子、で、話しって?あ、もしかして俺に告白か!うっきゃー!俺もやりよるわー!」
そういって隣で喜んでいる白石の背中を回し蹴りして沈める。…私の作戦ではというと、私が白石を屋上に呼び出して、さっきの女の子が白石に告白して成功してちゃんちゃんっていうわけだったりする。
――…えーっと、そろそろ時間だ。
「…じゃ、白石ちょっとここで待っててくれる?」
「え?そんなジュース買ってきてくれるなんて…気ぃ使わんでもええんに、」
「誰が買うか。」
そういって扉を押してでると、そこに立っていたのはさっきの美少女さんで。
「……頑張ってね、」
と私がそういうと美少女さんは「はい」とにこやかに微笑みながらいってしまった。……なんだかいやだなあ。
誰もいない空間で、私は扉を背に聞き耳をする。…なんだか話しが気になる。
「(あー…あんまり、聞こえない…。)」
『……で、……好き……す!」
あ、もしかして…今、告白した?
私はゴクリと唾を飲み込む。……なんだか、嫌だ。
白石がもてるのは十分承知だが、なんで…だろ?なんか聞きたくないんだよね。
『…………、…や…で、………ぇ』
「き…聞こえない、全然…」
OKだったの?NOだったの?全然聞こえない…。
胸の中のモヤモヤがどうしても晴れない。
――…もしかして、私…白石のこと…。いや、そんなわけない。そんなはずないんだ。
そんなことを思っていると、二つの足音がこちらへと向かってやってくる。
「(…やばっ!)」
私は慌てて階段を駆け下りると自分の教室へと戻った。
バクンバクンと心臓の音が高鳴っている。どうなったの?白石はどう返事したの?
冷や汗が頬を伝う。
「……田中ちゃんどないしたのん?」
そういって優しく微笑むのは金色。どうやら今回は隣にウザイほど密着している一氏がいないらしい。
「……え、べ…別、に……?」
「……そう?なんかあったよーな顔…しとるけど…」
そういって、金色は心配そうに私の顔色を窺ってくる。
「……ねぇ、金色」
「……何?どしたの、田中ちゃん」
「なんか…ね、胸がモヤモヤするの。」
「…………。」
「……さっき、さ。白石が告白されるところ見て…なんだか、胸が苦しくなったの。……これって、なんだと思う?」
そう聞くと、金色は困ったように微笑みながら「それが恋なのよ。」と言った。
.
..
...
――白石はどこだ!どこなんだ?!
もう間に合わないかもしれない。さっきの告白の返事はOKをだしたのかもしれない。
だけど――。
「(自分の気持ちを…伝えるんだ!)」
やっと気づいたんだ、この気持ちに。
…普段私にべっとりで気持ち悪くて、うっとおしいと思っていたはずの白石が気がつけば恋愛対象だったなんて思わなかった。…小春に言われなければ、きっと気がつかなかった。本当の気持ちに。
ガラッ。
「し…しら、い…し…っ」
2組の教室を開けると、白石がボーっとした様子で窓の外を眺めているようだった。私に気がつくと、目をパチクリさせる白石。
「え…え?なん…や、花子やん…どないしたん?」
「あ…あの、ね!あのね……!」
言葉がでない。今すぐにでも逃げ出したい。だけど――。
「好きなんです、白石が!」
「……え。えぇぇぇええぇぇぇェェ?!」
「じゃ…っじゃ!」
私がそのまま教室からでようとすると、後ろから慌てた様子の白石に手首を掴まれた。
ガシッ。
「……あ、あの…この手は…?」
「ま…まだ答え言うてないやん」
「……っ、聞きたくない…っ」
そういって両耳に手をやって聞かないふりをする。――ふられたくない。やだやだ。好きだから、何も知りたくない。
「――…あほっ、」
小さく呟くその声とともに、私はぎゅっと強く抱き締められる。
「……っへ、え…ぇ…?」
「……俺が好きなんは、花子や言うてるやん…っ」
「え…えぇぇぇぇええぇぇぇェェ?!」
「いつも好きやって告白しとったやん!……あれ、全部本気やったんに…」
あれが全部告白だったんですか?疑いの気持ちしか湧かないんだけど。
「……じゃ、じゃあ…さっきの美少女さんの告白は…?」
「あ?あれ――ユウジやで?」
「へぇー…って、えぇぇええぇぇェェ?!」
話しを詳しく聞くと、
どうやら金色と一氏が私と白石の関係にいい加減いじらしくなったらしくああいった行動にでたらしい。
…私にライバルができることで、白石の大切さに気づくんじゃないだろーかどーかとか。
「…じゃあ、私今まで騙されてたの?」
「……せやで。」
「(…恥ずかしい!)」
あああああ、穴があったら埋まりたい!そしてそのまま埋まっていたい!
顔を真っ赤にしている私を見て、白石がクスリと笑った。
「…花子、かわええ!」
ギュッ。
「ぎゃああああああああぁぁぁあ!やめ、やめえぇぇえ!抱きつくな、抱きつくなぁぁぁああぁぁ!」
「なんやねん、今更〜…。さっき告白してくれたやつが何いいよっとんのかなー」
そういって、白石がほっぺにちゅっとキスをしてきた。
「こんの、変態があああああああぁああ!」
バキボキグキッ!
.
..
...
「なぁー、小春ぅ。」
「なーにぃ、ユウ君?」
「あいつら…つきあっとるんやよな?」
「せやで、ユウ君。」
「……なんで白石包帯グルグル巻きになっとん?」
「ユウ君、それは気づいたらあかんのやで。」
「ごめん、白石。そういうつもりじゃなかったんだ。」
「……わかっとる…わかっとるで、花子。これも愛の試練や…」
白石に全治一週間の怪我を負わせたのは、また違う話し。
―――――
★あとがき
リクエストで、白石夢で、
変態白石で主人公が後から自分の気持ちに気付くてきな感じのリクをいただいたのでかいたのですが…。
うむむ。こんな駄文でよろしかったのでしょうか;;
あ、あの、ダメでしたらもっかいかきます!
本当にすみませんでした!