いや、もうありえねーだろぃ。
試合が終わったから飲み物飲みにいこうとしたら、偶然花子と部室ではちあわせて、偶然タイミングが悪くって、偶然唇が重なってしまって。そして、またそれを偶然スタメンに見られてしまって。
血の気がざーっと引いてもう息ができなかった。むしろその瞬間一回ぐらい死んでるんじゃないだろうか。もうとにかく俺は絶望した。
初ちゅーが花子となんて…。
花子はボロ泣きしてるし、いや、泣きてーのは俺だっつーの。
急いで部室行った俺も悪かったけど…そんな泣くことねーだろっつーの。
危機に瀕する
それ以降、周りの態度が変わった。
まず、仁王。
「おー、仁王!」
「………なんじゃ?」
「ん?……なんか、お前冷たくね?気のせ?」
「気のせーじゃろ」
「んー?ならいいけどよー」
「話しはそれだけか?なら俺は帰る」
「………っは?」
明らかに仁王は俺に素っ気なくなった。え?もしかして…仁王って、花子のこと、好き…だった?いやいやいや、ありえねーだろぃ!あんなにチビだのブスだのデブだのいってたくせに…!まあ、たまたま今日が機嫌悪かっただけかもしんねーけど。
続いて、赤也。
「せんぱーい!」
「あー?」
「……キスの味、どうでしたかー?」
「ぶほぉ!」
赤也は赤也で完全に面白がっている。本当にめんどくさい。今度エルボでもくらわしてやることにした。今決めた。
続いて、ジャッカル。
「………」
「おい、ジャッカル。お前何哀れんだ目で見てんだ」
「いや…故意でもないのにファーストキスを奪われた挙句号泣されたお前が哀れで…」
「黙れハゲ」
「ハゲ?!」
続いて、真田。
「丸井」
「おー?」
「正座しろ」
「………っは?」
「いいから、正座しろ」
いうがままに正座すると、真田は目をギンギラに光らせて俺を睨みつける。いや、え、え。
「部室の前で…あんな不埒な真似をするとは、たるんどる!」
「(ひぃぃ…!)」
「お前というやつは――…」
うんぬんかんぬん。途中から話しが右から左へ流れていると、真田がそれを悟ったのか俺に鉄拳をくらわした。もうどうなってんだ、この学校のスタメンは。
続いて、柳生。
「おーい、やぎゅー!」
「………はい?」
「(こ……こえぇぇ!なんか、柳生も仁王と同じぐらいこえぇ!)」
もう声がかけれないぐらい柳生は顔が怖かった。怒ってないのに…怒っているのがバカな俺にも察知できた。俺、仁王と柳生に完璧に嫌われたなこれ。(何で俺に怒りの矛先がむけられてんの?)
続いて、柳。
「…残念だな、諦めろ、丸井」
「っは?いきなり何?」
「しばらくはスタメンのやつらみんながお前を殺しにかかる」
「………」
「まあ…俺も例外ではないかもしれないが」
そういうと、柳はにやりと笑って「今日の花子のパンツは白だ」と言って去っていった。いらねーよそんな情報。ほしくもねーよ。それより身の安全が一番ほしーっつーの、ちきしょー。泣きてー。
……そして、おおとりは、幸村…様。
「ねー、丸井」
「ん?」
「俺さ…丸井のこと、呪っちゃいそう」
語尾に星なんかがついていそうな口調でいうから目をパチクリさせて思考がとまった。…っは?いやいやいや!何、呪っちゃいそうって!どういうこと?!ちょ、花子ー!
.
..
...
「……で、ブン太、何してんの?」
「俺が聞きてーよ。何で木に吊るし上げられてんだよ」
「………誰にやられたの?」
「幸村」
「………」
花子のことになると手が負えなくなる幸村…いや、本当に手に負えない。どうして木につるされているのか。そこで反省しろ、ということなのか。
「(ついてねー…)」
半泣きになっていると、花子が木によじのぼってロープをほどいてくれる。
「……!お、おまえ…!」
「か…かわいそうだから。私、まだ、怒ってるからね」
「………」
「じゃ、じゃあ!」
そういって、ぷっと顔をふくらまして行ってしまう花子。…深くにも、その顔がちょっと可愛く見えてしまった。って、え?っは?俺、今何を考えた?!
「(……俺、病気なのかな)」
花子が可愛く見えるなんて…。それより、これからの学校生活どうしようか…なんかもう、泣きたい。