卒業式が終わって、馬鹿みたいに友人たちと騒いでいたらふと視界にはいったのが花子の背中だった。

卒業証書を持ってぷるぷると震えている。それを、柳沢と赤澤が宥めているみたいだが花子はとうとう糸が切れたかのように泣き出した。


ぎょっとしている2人の気持ちも分からなくもない、俺もぎょっとして花子を見てしまったから。




「な…泣くなんて花子らしくないだーね!」


「そ、そうだ!お前、ほら、あれやるぞ!ほら、お前の大好きな飴ちゃんだ!」



そういって赤澤が飴を花子に渡そうとしたのだが、花子は首をふってそれを拒否した。


ずーん、と落ち込む赤澤が面白くてぷっと吹き出しそうになるのを何とか堪え、俺は花子の背後にそっとまわって彼女の肩を掴む。




「うぎゃん?!」


「……クス、泣き止んだ?」



「う……淳、うわぁあああぁあああん!」


あーあー。一瞬驚いた表情したのに、またすぐ泣き出してしまった。

何がそんなに悲しいのだろうか。


顔の肉をつまんでやれば泣きやむだろうか。


悶々とそんなことを考えていれば、花子は俺の袖で涙と鼻水を拭き始めた。




うわ、ありえないんだけど。


「今の状況でそれをいいますか。もっと優しくしてください、グスン」



何が優しくしろ、だ。優しくしたところできもいだのなんだのほえるのはそっちだろ。

と言ってやろうと思ったが、卒業式だし言わないでおくことにした。







「じゃ…じゃあ、俺達いくだーね!淳、まかせただーね!」


「じゃ、じゃあな!」


完璧に俺を見捨てた2人をいつか絶対呪ってやる…と心の中で念じながら花子を見る。

目が赤くはれあがってまるで妖怪みたいだ。




「……クスクス、面白い顔」


「………、ぶ、不細工で悪かったわね…!」


「不細工とは言ってないよ」


「………え?」


「口にはださず心の中で言ってるから」


そういえば、花子が顔を真っ赤にして怒ってくる。

……あー、面白い。こんなやりとりも、もうなかなかできなくなってしまうのだろうか。


そう思ったら何だか少し物悲しくなって、ちょっと花子をいじめてやろうかと考えたけど、泣いている花子をいじめたってつまらないだろうし…とりあえず頭をなでてあげることにした。


とりあえず、だけど。




「………うぅぅぅうう、うあぁああぁああん!」


「(また泣くのか)」


「淳と…もう、なかなか会えなくなるんだ…」


そう呟いてぼろぼろと涙をこぼす彼女を見て、思わずきゅんとしたとか絶対ありえない。だって花子だよ、絶対絶対そんなわけ――。




「淳の宿題がもううつせないなんて!淳のハチマキで柳沢を縛ることができないなんて!」


「………。」


「私の生きがいが、うぁああぁぁあああああん!」


本当、そんなわけないよね。一瞬わきあがった気持ちが一気に冷めてむしろ心地いいくらいだ。

最後くらいだ、やっぱり心おきなくいじめてあげよう。そうしよう。





卒業おめでとう





うぐあぁぁあああ!最後の最後に、ハチマキで首しめやがって…!」


「花子が悪いんだよ」


「………っはあ?」


「………、なんでもないよ。ってか、携帯だして」


「……え、何で。っは…!もしかして新手のいやがらせ?!携帯逆パカしようなんて私がさせな「メアド、教えてよ」………っへ」



そういって俺を見上げる花子の顔が少し可愛かった。……って、何言ってるんだ、俺。







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