「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!!」


「……はぁ」


魔女のコスプレをして、かぼちゃの人形を抱きかかえながら(っていうか、人形は必要なのか…?)花子さんが俺の前で仁王立ちをしている。

いっておくが、今現在は部活中だ。

全国のあちこちのテニス部を覗いてみても、部活中にこんなあほな格好をして部活のマネージャーをするやつなんていないだろう。



まあ、この人は別格だから仕方ないのだが。




キャラメル





「………おい、日吉…。いい加減、あいつに構ってやれよ」


「………」


「『日吉に無視された!』とかいって落ち込んで、ずっと泣きまねしてんのがうざくて仕方ねぇ…」



そういって、宍戸さんが困ったように部室の隅っこに目をやった。…部室の隅っこには、体育座りをして「の」の字を延々と書き続ける花子さんの姿があった。どよーんとした空気を身にまといながら、ぶつぶつと何かをつぶやいているのだが、「日吉日吉日吉日吉…」と俺の名前をずっとよんでいることに寒気がし無視することにした。

…この先輩は、いったい俺にどうしてほしいっていうんだ。わけがわからない。



「あー…花子、元気だせって」


「グスン…」


「ほら…チョコやるからよ」


マジでか!きゃー!宍戸ありがとう!好きー!」


「「…………。」」


宍戸さんも花子さんの態度の豹変にため息をつきながらも、いつものことだと肩をすくめながらチョコを与えている。

傍目からみたら、餌付けをしている飼育員だ。




「……もぐもぐ、おいひい」


「お前食べながらしゃべんな」


「はーい、もぐもぐ」



じゃあ俺は部活に戻るから、後は頼む。と宍戸さんが部室を出て行った。……途端に、花子さんが何かを思い出したようにピタッ!と動きをとめ、じーっと俺を見ている。


いや気のせいだ。きっと気のせいだ、見ていない見ていない見ていない見ていない見ていない見ていない見て………。…………。



すごいガン見されている。



「………何か用ですか」


「トリックオアトリート」


「………はぁ」


「お菓子!じゃなきゃ悪戯!」


「お菓子ならさっき跡部さんにもらってたじゃないですか。山ほど」


「日吉のがいーの!」


そういって駄々をこねる先輩にため息をつき、あぁ…どうしようか。お菓子をあげないかぎり、これは離してくれない気がする…。


ここをどう乗り切ろうかとあれやこれやと考えていると、自分のポケットに違和感があることに気づく。

ごそっとポケットに手をつっこめば、さつまいも味のキャラメルがでてきた。(あぁ…そういえばクラスの男子にもらったっけ。)




「……先輩、これあげます」


「………!いいの?」


「いいですよ」



たかだか100円ちょっとのお菓子に先輩は目を輝かせ、うれしそうに走りまわっている。正直パタパタうるさいが、こんなに喜ばれるとこっちも困るというか、怒りたくても怒れない。



「ぎゃー!ぎゃー!日吉からの、お菓子ぃいいい!」



「う…うるさいです。キャラメルなんかで喜ばないでください」



「ぎゃああああああああ!」




その後、いつまでも喜び続ける花子さんにとび蹴りをかまし沈めてやった。こんなハロウィンもたまにはありだよな…とか思うはずもなく、どたばたのハロウィンで終わったのだった。















「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -