「おーい、眼鏡ー。」
「誰が眼鏡や。名前みたいに呼ぶな、っちゅーか何の用やねん。」
「暇で暇でしょうがないから遊びにきてやったんだよ、喜べ!」
「……何で俺のとこやねん。」
「いや、一通り色々とあたったんだけどさ、みんなに拒否られた。」
「(あいつら逃げよったな…。)」
「クンクン!あ、なんか下の階からいいにおいが!」
「ん…ほんまや。これ、カレーのかおりとちゃう?」
「え?マジで?!ちょ、食べさせてもらいにいってきまっす!」
「って、あ、ちょ、待ておま――!」
.
..
...
「……おて。」
「ワンッ!」
「おかわり。」
「ワンッ!」
「…よくできました。じゃあちゃんとおすわりして待っていてください。それと俺のつかっている台から半径1m以内に入ったら包丁がとんでくると思ってください。」
あの後、花子の後を追っていったら調理室についた。――どうやら今日は2年生が調理実習をしているらしい。花子はというと、何故か日吉に手なづけられていた。日吉にいたっては仮にも先輩なのに"犬1号"と名前をつけとるし。…これ、もしかして2号とかもあるんとちゃうん?
「……あ、忍足さん。あなたもカレーライス食べにきたんですか?」
「いや、別にそういうことじゃないけど、このアホの面倒みんなんから。」
「……あぁ、そうなんですか。大変ですね、"犬2号"。」
「……え?ちょ、犬2号俺なん?!おま…仮にも先輩なんに!」
「黙らないとしばらくお預けです。」
「犬2号黙って!」
…なんかよぉわからんけど、必死な花子にずるずる引きづられて一緒に正座させられる。2年の女子はさっきまできゃーきゃー騒いでいたのに、俺が正座しとるところを見て急に陰で何かをこそこそと話し始めた。…ちょ、あきらかに俺のイメージランクダウンしとる。なんやもう、花子の後おってこんときゃあよかった。あ、なんか倒れだす女子までおる。…え、俺悪くないよな?
「日吉ー、俺人参切るからお前玉ねぎ頼むな。」
「あぁ、わかった。あ、肉いためておいてくれるか?」
「おっけ、わかった。」
――日吉が料理実習の班になじめているのがなんだか微笑ましい。…いや、そりゃあ日吉だって友達の1人や2人、むしろ数え切れないくらいいるって分かってるよ。わかってるけど、何かほっとした…!
トンッ。トンッ。
「日吉まーだー?」
「……包丁がとんでくるって、さっき忠告しましたよね?」
「……はい、すみません。」
いや、でもこのまま座ってても次の授業始まるんだけど…!あわわ…!ただでさえ単位が危ないっていうのに、遅刻なんてもってのほかだし!
「………っ」
「え、どしたの?日吉。」
「た…玉ねぎが…!」
とんとん、とリズミカルに玉ねぎを切っていたはずの日吉が、急に目を押さえ始めた。何この状況今がチャンス?襲ってもいい?襲ってもいいんだね?
「日吉、覚悟ォオオオオオ!」
「っ?!」
「って待てそこの変態。何日吉に抱きつこうとしとんねん。」
「うるさい変態糞眼鏡。よい子は黙って寝んねしてな。」
「なんやこいつうっざ…!」
「とりあえずそこをどけ忍足!」
「ぜぇったい退かんからな。」
「(……目、痛い。)」
「日吉ィイイイ!あいらっびゅー!」
「…っ!気持ち悪いです、クラスメイトがいる前で堂々と言わないでください!」
「すまんな、日吉。ちょ…コイツあかんからクラスもって帰るわ。」
「……え、ちょ?!」
めんどくさそうな顔をしながら忍足は私を片手で持ち上げると、そのまま外へ連行。ちょ、待て待て待てえぇぇぇえ!私のカレーライス!日吉が作ってくれる、愛のこもったカレーライスがああああ!
「いやあぁぁああああ!日吉、日吉ィイイイ!」
「…………。」
「うっさい、花子。」
「ぎゃー!尻叩くな変態!」
玉ねぎがしみった目をうっすら開けば、花子先輩の尻を叩いている忍足さんの姿があった。……とにかく、災難が去ってせいせいした。
「……若、お前の先輩たち変なの多いな。」
「……あぁ。」
同級生の言葉を否定することが出来る日が、いつかくればいいのに。…まあ、無理だっていうのは分かりきっているんだが。
涙目の日吉を抱きしめてどーこーしたいなんて欲があるから眼鏡に連行されるわけだ
「(……一応、花子先輩と忍足さんのぶんは残しておこう。……はぁ、3年の教室まで持っていかなきゃならねぇのか…めんどくせぇ。)」