「……何ですか、そのポーズ。」
「いや、だから分かるでしょ?」
「何も分かりませんよ。何で両手広げてどや顔してこっち見てるんですか。」
「いや、胸の谷間に顔をうずめさせてあげようと思って。」
「――断じていりません。まったくばかばかしい…。」
そういいながら日吉はコールドスプレーを足にして部室を出て行った。
誘惑しよう
おかしい。全くおかしすぎる。何がおかしいっていったら、日吉だ。
"おっぱい触ってもいいですよ"っていってあげたようなものなのに、何故なびかない。何故鼻血をださない…!
「おっかしいなあ…いち●100%とかトラ●ルでよく見るのになあ。」
少年ジャンプを日々よんで男性が女性を意識する仕草とか行動とか学んでいるはずなのに、日吉は何で振り向いてくれないんだろ。……っは!もしや、日吉って実は女――?!
「……そんなわけありません。」
「ですよねー。………………って、日吉いいいい?!何でここに?!」
「さっきからでっかい声で"何故ふりむかない!"だの何だの叫んでいたのはどこのどなたですか…。」
そういって日吉が「こちらにお邪魔させていただきますよ」って言いながら私の隣でメロンパンを食べ始めた。……屋上に日吉がくるとは予想外だった。っていうか、日吉が隣に!隣に座ってる!
どうしよう、なんていうか…ときめく。屋上で一人の女子は空を見上げ、一人の男子は柵に腰かけてパンを食べる。めっちゃ青春じゃないか、この図。
「っは…!やばい、日吉からの角度じゃパンツが見えちゃう!」
「自意識過剰ですか。やめてください、そんなもの見たくもないですよ。」
「どういうことだ日吉ィイイ!パンツみたいと思わないの?!男のロマンスだろぉがああああ!」
「……はぁ。そういうのは忍足さんにしか通用しませんよ。」
「……マジか。」
そうか…眼鏡にしか通用しないのか。なんだか悲しくなってきたんだけど。
「……あ。」
日吉の言葉とともに、メロンパンの入っていた袋が屋上の扉の前まで飛んでいってしまった。
「何飛ばしてんのー。私が取りにいってあげるよ。」
そういって、私は躊躇もせずに袋をとろうとすると――。
「……み、見えます!見えますから、取らなくていいです!」
「……っは?何が?」
「だ、だから…!」
後ろを振り返ると、いきおいあまって立ち上がった日吉が顔を真っ赤にしてあわてていた。何が見えるんだろうか。うーん?…考えて数秒。
「――っは!パンツ!」
「い、言わないでください!っていうか自覚があるならやめてください、本当に困りますから…!」
日吉が滅多に見せない姿を見て、なんだか抱きしめたいとか自分にも女としての魅力があるんじゃないかとか思ってしまっただなんて本人には絶対にいえない。
――なーんだ日吉、あんだけ私にあーだのこーだの文句言いながらも実は意識してたんだね!誘惑成功って感じかな?
「日吉どきどきしちゃって可愛い!」
「って、何で抱きつくんですか!やめてください、離れてください!」
「そういいながら好きなく・せ・に!」
「気持ち悪いです。いい加減怒りますよ。」
「はい、すみません。」
日吉が怖かったので言われたとおりに抱きつくのをやめる。…そういえば今日私どんなパンツはいてたっけ?
「ねえ、私どんなパンツの柄だった?」
「……っは?それ、聞くもんですか…?いえ、ギリギリ見てませんから。」
「っち…ギリギリ見えなかったか。おしかったね。」
「何がですか…。」
いちご柄のパンツだったらまさにいち●100%てきな展開だったなあ。そう思いながら、私は記憶をよーくたどってみる。…えーっと、どんなパンツはいたっけ…。
「あ!」
「?」
「そういえばスパッツはいてるんだった…!残念だな、日吉よ。パンツを見るという夢は諦めたまえ。」
「いえ、そもそもそれを公言するのもどうかと思いますが。…スパッツでもなんでもかまいませんが、先輩はもっと警戒して行動をするべきです。たとえば――」
うんぬんかんぬん、日吉の説教が昼休みが終わるまで続いたのは私の中では黒歴史だったりする。…いや、説教されるだけ愛されてるってことだよ。
そうだよ!ね?日吉!
なんだかんだでそんな日吉が大好きなんだからね!…まあパンツは失敗したけど、今度こそ色仕掛けで勝負してやろう。
「(今度はスカート短くして脚見せようかな…っは!ダメだ、忍足っていう変態がいた…!)」