『あああああん、ぱあああああん、まあああああああん!!』
「……………。」
朝、目覚まし時計がいつもジリリと鳴くはずなのに今日は何故かあんぱん●んの曲が流れ出した。爆音ともいえるようなかけ声の後に、歌とも言えるか否か分からないほどの音痴な声…あぁ、これは花子だな…。アイツ、いつのまにこんなもの録音してんだ?
ふざけんな、マジではっ倒す。
そういえば一昨日アイツを家につれてきたっけなあ。もう二度と家にあがらせないでおこうかな。
『ららんら〜ブチッ。
「……はぁ、今日は部活だな。」
とりあえず馬鹿みたいな歌を消してから、俺はいそいそと支度を始める。…早めにいかないとな。そういえば昨日長太郎がラリーの打ち合いしたいとかなんとか言ってたよなあ…早めに行って特訓についてやらねーと。
「よし。」
帽子をセットして家をでる。…今日も空が青いぜ。
しばらく歩いて、氷帝についた。部室へと足を運ばせると、そこには何でか知らないけど忍足がいた。なんだ、こいつ。何してんだ。
「……何してんだよ、忍足。」
「あ…宍戸!あんな、聞いてや!」
そういって、忍足が泣きそうな顔でこっちを見た。…こっち見んな。とかいってしまいそうになる衝動をなんとか抑えた。
「花子と鳳がな……!」
「あ?」
「猫と犬になってもーた!!」
「……っは?」
嘘
「にゃんにゃん!」
「わんわん!」
「……な?分かってくれたやろ、これ見て。」
「いや、何もわかんねーよ。意味わかんねーよ、どうしたらこうなんだよ。」
やばい…話しの展開が追いつかない。…このまま家に帰ろうか。そして、また花子の馬鹿みたいな音痴のあんぱん●んの目覚まし時計でも鳴らそうか。…うん、それが一番だ。
「じゃ、俺帰るわ。」
「って、何で帰ろうとすんねん!待て待て!」
出て行こうとすると、忍足が必死な顔でくらいついてきた。……いや、俺にどうしろっつーんだよ。
「……俺、もっかい寝るわ。わりぃな、忍足。」
「俺だけ置いてくな!」
「……あ、そういえば他の部員はまだなのかよ。」
「それがな…みんな帰ってもーた。」
そういって、忍足が肩を落とした。……やべえ、なんか同情してきた。
「お…忍足、」
「宍戸は!」
「!」
「宍戸は…いかへんよな?そんな男やないもんな?跡部や岳人や日吉や樺地、慈郎や滝みたいに平気な顔で帰ったりせぇへんよな?」
「………。」
……どうしよう。忍足がガチで泣きそうになっている。さすがに帰るにも帰れず、俺は「はぁ」っとため息をついてからかばんをおろした。
「宍戸ぉ!」
「な、なんだよ!きもちわりぃんだよ忍足!」
「お前やっぱええやつや!」
今まさに抱きついてきそうな忍足を思い切り蹴飛ばしてから、花子と長太郎のもとへと行く。
「にゃんにゃ〜ん!」
「わんわん!」
「………外見、はなんも変わってねーよなあ…。」
猫と犬って…。見た目はまんま人じゃねぇか。
「……忍足、事情を説明してくれ。」
「俺もな…よぉ分からんねんけど、部室きたら2人がこうなっててん。」
「………。」
「にゃんにゃん!にゃーん!」
そういうと、花子が俺の胸へがばっと抱きついてきた。ふわっと石鹸のようないい香りがして思わずたじろぐ。
「な…!花子、離れろ!」
「わんわんわん!」
「ぎゃあああああああ!何でだよ、何で長太郎まで抱きついてくんだよおおおお!」
長太郎と花子が抱きついてきたことにより、俺はその場に倒れた。……倒れたにもかかわらず、2人はまだ俺にすりよってくる。なんて悪夢なんだ。忍足なんか、こっち見て「ええなー」なんて言ってる。何がだよ。
「花子、俺んとこおいでー。」
「シャアアアア!」
「……何で俺にはなつかんねん!」
……それより、どうしようか、この2人。人語が喋れなくなった、っていうところなのか。っていうか、なんでこうなんだよ。どういう漫画の世界だ。
「………っぷ、ふふふ。」
「?!」
「あ、花子さん!笑っちゃダメじゃないですかあ!」
「いや、だって!何か…宍戸が本気な顔してたから。」
そういって、猫になっていた花子が…犬になっていたはずの長太郎が、喋りだした。なんだこの展開。本当…俺、帰ってもいいのか。
「忍足!あれ、あれ出して!」
「はいはい。」
そういうと、忍足がさっと看板をとりだす。そこには"エイプリルフール企画!丸秘ドッキリ!"なんて可愛い文字でかかれていた。……やべえ、なんかむかつく。
っていうか、もういい加減起き上がってくれないのだろうか。何でこの2人はいまだ俺の腰にしがみついてんだ。
「………忍足。お前もグルだったのか。」
「まあな。堪忍したってーな、なんやえらいおもろそうやったから。」
「でも最初はひやひやしましたよね。宍戸先輩以外のほかの部員たちはみんな帰っちゃいましたから。」
「………あいつら…。」
すげぇ…あいつら、ガチで帰ったのか。俺もあいつらを見習わないといけねぇよな。なんか騙されたっていうほどでもないのに恥ずかしくなってきた。何でだろうか。いや、俺が恥ずかしいんじゃなくてこいつらが恥ずかしいんだ。絶対そうだ、そうにちがいない。
「宍戸、ごろにゃ〜ん。」
「あ!花子先輩だけずるいです、俺も!」
「何で宍戸だけモテモテなんや…花子、俺のところへカムバアアアアック!」
「あんたのとこだけは一生いかないわ。」
「なんでやねん!」
………なんだかもう、どうしようもなくて、かといって起き上がる気力もなくて、俺は「はぁ。」とため息をついてから部室の天井を見上げた。
「(こいつら、全員ぶん殴る。)」