「よし、てめぇら。今から手つなぎ鬼すっぞ。」

すべては跡部のその一言から始まった。


手つなぎ鬼



部活開始前に何をいってるんだコイツは。まあ私マネージャーだし関係ないし勝手にすればいいんじゃないの。そう思ったのが間違いだった。

「もちろん、スタメン+花子だ。

「……っは?!え、ちょちょちょ!なんで私入ってんの――?!」

「榊監督の指示だ。滝も入ってる。」

「……俺もなの?」

手つなぎ鬼のメンバーはスタメンと私と滝らしい。はっきり言って私関係なくないか?君たちみたいに毎日グラウンド走ったりしてないし、体力だって男と女だから結構違うけど。

「――あの、私女なんだけど。」

「あ?どこがだ?」

「え?殴っていいの?

「まな板みたいな胸と乙女ゲー買いあさってるお前が女とか世界破滅だな。」

「言ってくれんじゃないか、跡部。」

「あー、もうお前ら毎回毎回喧嘩すんなって…!」

跡部とガンをとばしあっていると、みかねた宍戸が止めに入ってきた。――乙女ゲーは世界をすくうんだよ!知らないのかよ!

「…ってことで、まぁ手つなぎ鬼を始める。スタメンと花子と滝はコートに入れ。」

「……あの、すみません…。」

メンバーがぞろぞろ外へでていく中、長太郎が少し申し訳なさそうな顔で言う。


「……手つなぎ鬼、ってなんですか…?」

「え?!長太郎手つなぎ鬼知らないの…?!」

「え?あ、は、はい…。」

なんだか時代の差を感じてしまった…。

「手つなぎ鬼ってね、鬼一人を決めて鬼は逃げてる人を追いかけるの。まあそこまでは普通の鬼ごっこてきな感じ。」

「あ、はい。」

「それで、鬼にタッチされたら鬼がチェンジするんじゃなくて、その人も鬼になるわけ。」

「………はぁ。」

「まあ、タッチされたら鬼と一緒に手つないで逃げてる人を捕まえなきゃいけないってわけ。プラスルとマイナーみたいなもんだよ。

すみません、まったく意味が分かりません。

「あ、それと鬼が4人になった時は2・2で分散できるっていうことも覚えておいてね、長太郎。」

「……はぁ、まぁ、なんとなく分かりました。」

あまり納得のいっていない長太郎だが、実際にやってみればわかるだろう。うんうん!

「じゃあ、まずはじゃんけんからだな。」

そういって、跡部がみんなを輪になるように集めて一斉にじゃんけんをする。


「「「「「じゃんけーん…!」」」」」


.

..

...


俺が鬼や。

「なんでしょっぱなからお前が鬼なんだよ、めがねぇぇぇぇぇえええ!」

「なんや花子、えらい反抗的やな。最初にお前捕まえるから観念せぇや。

「………っ!」

私は顔色をかえて遠く遠くへと逃げる。だってさ、考えてみなよ。つかまったら忍足と手つないで走らなきゃいけないんだよ?どんな罰ゲームよりもひどいよ、これ。捕まったら自分の人生とかうんぬんかんぬんが終わる気がするんだ。


「(うわぁ…花子真顔で走ってった…そないに捕まりたないんか。)じゃあ10秒数えるからなー。」

後ろを向いて10秒かぞえ始める忍足。――足だけだったら絶対勝てる見込みはない。じゃあ捕まらないようなところにいけばいいじゃないか。


「……何してるんですか。」

「いや、日吉を盾にして忍足をバリアーしようと。」

ふざけないでください。もの凄く邪魔です、っていうか動けないんですが。」

日吉の後ろに隠れてみたはいいが、日吉はものすごくうざそうな顔をしている。あ、今ため息ついた。

「……花子先輩がいると俺がタッチされるんですが。」

「いいじゃん、忍足と仲良く鬼やりなよ。」

「嫌ですよ。俺と忍足さんが手つなぎながら走るなんて気持ち悪いじゃないですか。」

「……うん、否定はしない。」

「じゃあ、どいてください。」

そんなことをいっているうちに、あっという間に10秒たったらしく忍足が全速力で「花子ー!」と叫びながらやってくる。

ぎゃぁぁっぁああぁぁぁあああああ!何か変態がくる、変態がくる!いけ、日吉!ブリザド使ってやれ!」

俺は魔法使えません!っていうか、袖から手離してください!ちょ、離せ――!」

「どうせ捕まるなら日吉も一緒だ!」

「ははは、ふたりとも捕まえたで。」

――田中、日吉、忍足によって捕獲。.

..

...

「……宍戸さん、見てくださいあの光景。左から日吉、花子さん、忍足さんっていう組み合わせ、なんか不思議な光景ですね。」

「いや、むしろきもちわりぃんだけど。…っぷ、笑っちゃいけねぇけどよ、日吉のあのすっげぇ嫌そうな顔見ると笑える…ぶぷっ」

「いえ、それに負けないくらい花子さんも眉間に皺寄せてますよ。まあ、原因は日吉じゃないほうにあるんでしょうけど。

「……心底嫌がってたのに、一番最初につかまってるしなあ。って、うお!なんかあいつらこっちに向かって走ってくるぞ!」

「宍戸さん、こっちです!」

ットン

ズデンッ!

「うぉおおおぉおおお!」

走ろうとしたら少し大きな石につまずいて派手に転ぶ宍戸。

「……どんまい、宍戸。」

「って、ちょうたろおおおおおおおおお!てめぇ、何一人ではるか彼方に逃げてんだよ、てめぇ後でしばくからなぁぁぁああぁぁ!」

――宍戸、捕獲。


「あ、4人になったから分散できるよ。」

「花子ちゃんは俺とやな。」

全力で却下。

「……あー、もうお前らそういう話ししたら収集つかねぇだろ。平等にグーキーしよう。」

「そうですね。それが一番だと思います。」

「「「「ぐーきーぐーきー……」」」」

.

..

...


「………神様は不平等だ。」

「お前、いつまでおちこんどんねん。いい加減しばいたろか。」

「くそ。」

グーキーの結果、私と忍足、日吉と宍戸という別れ方になってしまった。…あぁぁぁあぁ、日吉!君の手の感触がまだこの手に残ってるのにいいいい!

「ほないくで、花子。」

「やだ。手つなぎたくない。」

「お前な〜…。あこで寝取る慈郎ぐらいタッチするで。」

うん、する。

「(…こいつ、人で選びやがって……)」

忍足と二人で走るのは嫌だけど、じろちゃんがいるなら仕方ない。


「そこで寝ているYOU!タッチしちゃうぞ、ついでに襲っちゃうZO!」

「……うるさい、静かにしろ。

忍足いいぃいいいぃい!なんかじろちゃんが黒い、怖い!」

「お前ほんまやかましいやっちゃな。」

すると、前方からこっちへ逃げてくる跡部を発見。

「花子、いくで!」

「えー、跡部とかタッチしたくない。」

俺も嫌や。けどさっさと終わらせるため仕方ないやろ!」

「あーそうだね。これ以上忍足と手つなぎたくないしね、うん!」

「(……やばい、凄い複雑な心境やねんけど。)」

まあ、そういうわけで跡部をはさみうちして確保することに成功した。

――跡部、捕獲。


「……てめぇら、はさみうちなんてせこいだろ。あーん?」

「跡部ぐちぐちうっさい。」

「花子、跡部は捕まったことが恥ずかしいからそんなこといったらあかんで。」

「忍足もうっさい。」

「俺もかい!」

左には跡部、右には忍足。――なんでこう、むさいのと手つないでるんだろ、私。




「あ、岳人だ。宍戸たちに追いかけられてるね。」

「でも岳人はすばしっこいからなかなか追いつけんやろ、いくらあいつらでも。」

「宍戸はまだ食いつくだろうが――…日吉が相当やる気のねぇ顔してるから捕まえんのは難しいんじゃねぇか?」

すると、忍足が何かを思いついたかのように急に右足の靴を脱ぎだした。

「え?何してんの、忍足。足のにおいチェックとか今しないでy「ちょ、黙れ。

忍足は靴を思い切り岳人のほうへと投げた。それが見事岳人に集中して岳人が前へとずっこける。

「………忍足、すごっ。」

「どうや、見直したやろ。」

「無駄な才能だね。」

「…………。」

――岳人、捕獲。


「えーっと…後残ってるのはじろちゃんと滝と、長太郎か…。」

どうしよ…腹黒い3人が残ってしまった…。

「そういえば樺地はおらんなあ。」

「あ!本当だ、樺地いない!」

「樺地なら俺のタオルをもって待機している。」

「「それぐらい自分でしろ。」」

あーもう!あの3人を捕まえるなんて絶対無理だ。絶体絶命だ。



「――あーもう、ここで考えとってもしゃーないわ。いくでお前ら!」

「え?真正面からつっこむの?」

「何もせぇへんよりかはましやろ。」

「……まぁ、俺もその案には賛成だな。何もしねぇよりかはマシだ。」

「………わ、わかったよ。やればいいんだろ、やれば!」

そういって私たちは手を握りながら思い切り走る。(あ、あれ。何か両隣がめちゃくちゃ早くて、私ついていけてないんだけど。っていうか、このスピードでいったら私こけるんだけど…!)


「ちょ、ちょ、二人ともま――」

ガッ!

鈍い音とともに、私は顔面から地面に着地。両隣で手をにぎっていた二人もまきぞえになって、3人で思い切りこけてしまった。


「〜〜〜!花子、またてめぇか!」

「違う、こっちがこけたから。」

「って、何で俺やねん!明らかスピードについていけてなかったのお前やろ!」

「知ってたならスピードゆるめろよ!」

「まず謝れ!」

「そーや謝れ!」

「なんだとお前ら、むしろお前らが私に謝れ!」




「(……おい、なんかあっちでもめてんだけど。)」

「(また侑士と跡部と花子かよ。)」

「(…なんかもういいんじゃないですか。手つなぎ鬼とか疲れました、普通に試合しましょう。)」




そうして、手つなぎ鬼は幕を閉じたのだった。



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