「すきすきすきすき、すきっぷ〜♪うきうきうきうき、すてっぷ〜♪」
ちょっと歌いながら廊下をスキップしていただけなのに魔王に見つかりました。
スキップしちゃだめ
「何故見つかった。」
「見つけたくなくてもあんなでっかい声で音痴な歌うたわれたらさ、誰でも気がつくにきまっているだろ?」
「音痴って失礼な。音程がとれないだけじゃん。」
「人はそれを"音痴"っていうんだよ。」
「あの…真顔で言わないでください。うん。ごめんなさい。」
素直に謝ると幸村はいつものように微笑を浮かべて「あはは、まあ賛美歌のような美しい歌なんて君には歌えないだろうしね。」とか言いやがった。最後のつけたしいらなくないか?
あ、何か幸村がこっち睨んだ。怖い。目線そらそう。
「…何目線そらしてんの?」
「いや、怖かったんで。」
「俺がかい?」
「こんだけいつも怖がってんのに今更それを聞くかアァァッァアア!」
「あはは、怖がってる花子の顔って最高に傑作だよね。」
「……ジャッカル助けて、ガタブルがたぶる。」
「ジャッカルなら丸井とサッカーしにグラウンド行っちゃったけど。」
「って、おいぃいいいぃいい!こんな時にあいつらサッカーかよ、何青春しにグラウンドいっちゃったんだよ!」
こういうときの救世主(メシア)様はどうやらグラウンドへ行ったようです。…っち、役にたたねぇ。なんて思っても声にはださないよ。
私優しいからね!
「それよりさー、」
「ん?」
「いつもあんなふうにスキップしながら歌ってんの?」
「もちろん。」
「……廊下を?」
「うん。」
「職員室の前でも?」
「そうだよ。」
「真田の前でも?」
「この前真田の前でスキップしながら歌うたったら1時間以上説教くらった。」
思い出させないでほしい…私の黒歴史。真田が真っ赤な顔をして私を怒っていたが、何をいっていたかはよく覚えていない。
なんとなく覚えているのは「部の恥だ」だの「お前はもっと羞恥心を持つべきだ」だの「お前にかけているものは女性らしさと清潔さだ」だのそんなことを延々と言われ続けた。
お説教があまりにも長くて退屈だったから逃げ出そうと真田に「あ、UFOだよ!」って窓から見える青空を指出したら案の定、「何?!どこだ?!」と引っかかったのでその隙に逃げたがすぐにつかまってあっけなく私は生徒会室へと連れて行かれたのだ。
そのぶん、みっちりしごかれたので私はもう真田の説教はくらいたくない。
怖い。真田怖いよ。
幸村とは違う怖さなんだよ。
「……ふーん。真田がそんな長時間説教をくらわすとはねぇ…。」
「もう散々だったんだからね。幸村からもなんかいってあげてよ!」
「花子が悪いことしなければいいんだろ?」
「ごもっともでございます。すみません。」
クスクス笑っている幸村を尻目に、私はふと廊下から聞こえる声に耳を傾けた。
『こら、赤也!廊下は走るなといっているであろう!』
『っげ…真田副部長…。す、すみませんでした!じゃ、急いでるんで!』
『って、待て!まだ説教中だ!』
「………。」
「………。」
「……真田は苦労者だね。」
「……なんか、私真田に悪いことしたかも。」
「赤也といい、花子といい、仁王といい…。真田はなんだかんだで気に入ってるんだろうね、お説教とかそういう類をすることをさ。」
「え、何その解釈。真田S疑惑?」
「あはは、やめてよ。気持ち悪い。」
「あんたがいったんだろ。」
「花子口の聞き方が悪いよ?」
「すみませんでした。」
あんな真っ黒い笑みを浮かべられたら逆らえません。……幸村恐るべし!
「あぁ、そういえば花子、」
「ん?」
「君がさっき歌ってた歌、ばっちり録音させてもらったから。」
そういって、幸村がにっこりと微笑みながら携帯を私に見せた。
「!!!!!」
「あ、凄い顔してる。あははー、やっぱり花子をいじめるのは楽しいや。」
「ちょ、ガチで消せ。今すぐ消せ、記憶からも消せ。」
「そういう無理言わないでよ。第一、学校の廊下はスキップしながら歌う場所じゃないだろ?」
「ごめんなさいもう二度としないので許してください。」
私はその日から学校の廊下をスキップしながら歌うことをやめたのだった。