ピンポーン。
いきなり家の中に鳴り響くインターホンの音。観覧版か郵便物とかそういう類だろう。そう思い、寝起きのパジャマと髪の毛のまんま階段を駆け下りるとそっと扉を開ける。
ガチャッ。
「花子さぁぁああーん!家に来てみました!」
「…………。」
なんかいる。なんかいるんだけどォオオォオ!
犬。
「花子さんひどいです。ぶーぶー。」
「ぶーぶー言っても可愛くないです。っていうかむしろワンワンだろ、あんたの場合。」
「じゃあワンワン。」
「……粗茶です。」
「何でスルーしたんですか。」
とりあえず何をだせばいいのか迷ったすえ、冷蔵庫にあった牛乳を出してみる。賞味期限大丈夫かな。
そう思いコップに入れてみたんだけど、なんか…牛乳が固体になりかけてる…。いや、まあ長太郎だし大丈夫か。
そう思いコップを机の上にぽんっと置くと、長太郎が「うわっ!くさっ!」といって鼻をつまんでコップから体を思い切り引いた。
「せ…先輩、これ絶対賞味期限切れてますよ!」
「えー、そう?」
「……えー、そう?ってそんなもの出さないでください!」
「長太郎なら大丈夫かなーみたいな?」
「みたいな?じゃないですよ!こんなの飲んだらお腹壊します、捨てましょ捨てましょ!」
そういって長太郎がコップの牛乳を思い切り洗面台に流し、牛乳パックをそのままぽいっとゴミ箱に投げ捨てた。あばよ、牛乳。
どうやらお前は賞味期限がきれていたらしいぜ。
「――っと忘れてた、そういえば長太郎はいったい何の用で家にきたわけ?」
「さぁ?なんででしょう。」
そういって満面の笑みでニコニコと笑みをうかべている。…あー、犬耳にしっぽが見える。ぶんぶんしっぽふってる、こうしてれば可愛いのにな。こんちきしょー。
「今日バレンタインだからチョコ取りにきたんでしょ。」
「半分正解です。」
「……半分?」
あれ?半分っておかしくね?そう思い首をひねっていると、長太郎が「あー!花子先輩もしかして忘れてるんですねー!」なんていってぷんぷん怒り出した。やめてくれ、そんな長太郎も可愛いから。
可愛いからさっさとチョコもって帰ってくれないか。
私は冷蔵庫からガトーショコラをワンホールとりだして長太郎に渡した。
「……はい、バレンタイン。っていうか、半分ってどういうこと?」
「はい、それはですね――」
私がフォークをとりだして長太郎に渡した瞬間に答えは返ってきた。
「今日、俺の誕生日なんですよ。」
「……………。」
「えへへ!だからいてもたってもいられなくて来ちゃいました!花子先輩、バレンタインと誕生日祝ってください!」
「……はいはい、おめでとう…。」
……バレンタインと誕生日が同時なんて今日始めて知ったんだけど。ガトーショコラワンホールあげてよかった、なんかよくわかんないけど2つぶん祝う価値はあるだろうし。
「花子さん、じゃあ蝋燭たててフーしましょ!」
「言っとくけど私の家には蝋燭は一本しかない。すなわち、長太郎の年は1歳ということになる。」
「ぶーぶー。」
「残念ね。」
「わんわん。」
「可愛くないからやめなさい。」
そういうと、長太郎がおとなしくなってからぷいっとそっぽを向いて「……先輩、祝ってくれないんですか。」なんて呟くからなんだか胸きゅんしてしまった。
「……はいはい、誕生日おめでとう。長太郎。」
「……っ、花子さぁん……!」
頭をよしよしとなでてやると半べそをかいたような顔になって腰に抱きついてきた。――どうやら私はとんでもない大型犬になつかれてしまったらしい。
「(先輩のガトーショコラ、あれですね!おいしいかおいしくないかわかんないです!)」
「(正直でよろしい。じゃあ長太郎、おま、ちょ一発殴るから歯くいしばれよ。)」