――どうやら明日は神聖なるバレンタインデーという日らしい。
私は手に汗握りながら、お菓子の難問とか言われているマカロンに挑戦したのである。
汚物チョコ
「何、これ。」
「マカロン。」
「…うんk「何か言った?」いや、なんもない…あ、あぁぁああぁあ、マカロンな、マカロン…」
うっかり汚物の名称を言おうとしたユウジの言葉をさえぎって私はお菓子の正式名称を伝えた。
うんこじゃないもん、マカロンだもん。
――やはりお菓子初心者の私が挑むべきではなかった。何をミスったのかはよく分からないが、最初から生地はどろどろだし乾かないしそのままオーブンに入れてチンしてみたらぐちゃぐちゃに分解されたような得体のしれないものが出てきたのだった。
それを見たお母さんが、
『……うんこ。』
っていったのは今でも忘れない。
「あ…あぁ、でもお菓子って見た目やなくて中身で決まるからな、うん」
「でもユウジ、私の作ったお菓子見てちょっと顔ひきつってない?何か口角のところピクピクしてない?」
「そ、それは気のせいや!何か香ばしい香りがするから思わずな、な!」
「へぇ。じゃあ今食べていいよ。」
「………。」
「どうしたの。」
「あー…いや、うん。」
「……食べてくれないの。」
「いや、そういうんやなくて、」
「私のうんこみたいな料理は食べられないってか!ユウジ最低、どうせユウジなんて顔で人を判断するタイプなんでしょ!」
「ってなんでそうなんねん!それやったらお前なんかえらばな――…いや、すまん。何もいうてへん。いや、だから、ごっつ睨まんといて。」
ぎろっと睨んでやると降参したかのようにユウジがぺこりと頭を下げた。――分かってるやい。私が美人じゃないってくらいよ。
でも、ユウジは何を思ったのかこんな私を好きになったのである。
…そして私も何を思ったのかこんな男を好きになったのである。全く世の中は分からないことだらけだ。
「…本当に申し訳ないと思うなら今マカロン食べてくれる?」
「…………わ、わかった」
そういっておそるおそるマカロンを手にとってにおいを確認するユウジ。失礼すぎるだろ。正直そこまで警戒されると泣きたくなってきたんだけど。
「い…いっただきまーす…」
そういってユウジは目をつぶりながらひょいとマカロンを食べた。
「――」
「……え、ユウジ?」
「……………え、うまいんやけど…これ…。」
ユウジはくりくりな猫みたいな目を輝かせて、また一つマカロンを手にとって食べ始める。
「見た目はあかんけど、ごっつうまいで!これ!」
「失礼だな、おい。」
「ほどよい甘さに外はさくっとして中はしっとりしてる…その絶妙なバランスがええかんじや!」
――まあ、見た目は失敗したけど味は成功したらしいのでよしとする。
「(来年もマカロンに挑戦しよっかな。)」
「(…うまいけど、なんでこんな外見がグロくなったんやろ。うまいからいいんやけど…。)」