「あのー」
そういって厨房へ入ると結構若めの女の人がこちらをクルリと振り返った。
「あ…はい?」
「あの、マツタケとれたんで今日はマツタケご飯にしていただいてもいいでしょうか?」
「あ、いいですよ。」
「もしよろしければ私も手伝っていいですかね…?」
そうきくと、女の人がニッコリと微笑んで「もちろんです」といった。
幼児化!
――みんなが過酷な10キロのランニングをしている中、
私のほうはというと女の人とマツタケご飯を作っていた。
女の人の名前はスエさんというらしく、
スエさんはまだこの旅館へきて1ヶ月の新人らしい。
…それにしても手馴れているなあ。
本当に新人なのか。
とさえ疑ってしまいそうになる。
「…わ、スエさんいい香りしてきましたね」
「あら、本当ですね。田中さんが手伝ってくれたからかしら」
「いえいえそんなことないですよ!」
そういってアハハと笑いあう。
――こういう時間って楽しいけどあっという間に過ぎちゃうんだよね。
「あ…やばい!
そろそろみんなが帰ってくる頃だ!」
「後は私が料理の支度などをするので、田中さんは行ってください」
わー、スエさん本当いい人!
「ありがとうございます!では行ってきます!」
私は深くお辞儀をすると、やつらのところへと走る。
「(タオルとかドリンクとか用意しなくちゃ…!)」
.
..
...
「はあー、ほんま半端ないっちゅー話しや。」
「はいはい、お疲れ様」
そういいながら謙也にドリンクとタオルを渡す。
ゴール目前に私は大量のドリンクとタオルを用意してみんなの帰りを待っていた。
一番最初に先頭に立って走ってきたのは謙也だった。
「(さすが浪速のスピードスターだなあ)」
そんなことをモヤモヤと考えていると、
アホな謙也が石っころにつまずいてこけて財前や金ちゃんがその上を踏んで走っていったのだ。
…哀れすぎる、謙也。
「はい、ユウジ」
「おん、おおきに!」
ユウジはというと、小春と一緒にスキップしながらゴールしたのだった。
…え?お前ら10キロ走ったんだよね?
どこからそんな体力沸いてでてきてんの?
と不思議だったがあえて聞かないことにした。
「みんなお疲れ様、ご飯用意してあるからね」
そういうと、みんながガッツポーズをして喜び合っていた。
…すでに日も暮れて、辺りが暗くなってきた。
早く帰らなくちゃ。
.
..
...
「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」
そんな声とともに、
みんなが一斉にマツタケご飯を食べ始めた。
…謙也、落ち着け、落ち着くんだ。
あぁぁあぁぁ、喉につまらせてるよ、こいつ!
「はい謙也、水」
「お、おおきに」
周りを見てみると、とりあえずみんなマツタケご飯から手をつけているようだった。
――ユウジを除いて。
「ユウジ、マツタケご飯嫌いなの?」
「ん?あ…いや、そういうわけやないけど、」
「?」
さっきからなんなんだろ、ユウジは。
あ、もしかしてマツタケよりオクラいれろって怒ってるのかな。
「あー…ごめん、オクラはさすがに山にないかな」
「何の話しやねん。」
「え?マツタケよりオクラいれてほしかったんでしょ?」
「…そんなんやないけども、」
ユウジが小さく「なんか嫌な予感すんねん」と呟いた。
「嫌な予感…?」
私がそう聞き返した瞬間だった。
――ボンッ!
「きゃ…っ?!」
「何や今の音…」
くるっと振り返ってみると、そこには――。
「ここ、どこぉ…?」
そういって、不思議そうな顔をして辺りを見渡している子供が一人。
…そこって、確かオサムちゃんが座ってた席じゃ…?
「…オサムちゃんはどこへ行ったんや?」
クルクルと辺りを見渡す白石。
…オサムちゃーん、どこへいったー!
「……ママ…ママは、どこぉ…」
そういって、ぐずり始める子供。
…よく見てみれば、髪色といい目の色といい。
…………オサムちゃんが幼児化した?
いや、まさかね。はっはっは。
ボンッ!ボンボンッ!
「ぎゃああぁぁあぁ!」
辺り一面が一気に煙に包まれる。
なんだなんだ!今度はなんなんだ…!
「………嘘、やろ」
驚愕するユウジの声とともに、私も絶句するほど驚いた。
「………っは?何で…幼児ばっかいんの?」
おかしい。
何でみんな子供になってんのぉぉおおおぉぉおお?!
「(ユウジ、どうしよどうしよ!)」
「(いやいやいや!)」