「花子、ほらはよ走らな試合に勝てへんで!」

「(いや私別に試合しないし。)はいはーい…」

そうはいうものの、体力のほうはすでに底尽きてきている。
…うぅ、ユウジは鬼畜だ。



「はいはーいやなくてはよ走らんかい!」

「うわーん」

「謙也の泣きまねしても許さんで」

「すみませんでした。」


残酷な優しさ




午前は基礎練をたっぷり叩き込まれた。
…普段彼らがこんな練習をしてるのかと思ったら、食べたものが逆流しそうになる。
……うぇっ。もう走れません。


「休憩やな。」

「やったー。」

「……ここで待っとれ、お茶買ってきたるし。」

そういうと、ユウジは私をとりのこして走っていってしまった。
……私はこの前のようにベンチに座ってぼーっとコートを眺めた。


そういえば、この間もまったく同じパターンだったなあ。

私がベンチで休んで、ユウジがお茶を買いにいってきて。

……そんなユウジの小さな優しさに、私は弱いんだなあ。




「(…変なの、涙がでそうになる。)」

『…ユウ君も花子ちゃんも仲むつまじいわねぇ。』

『全然仲むつまじくないわ!』

……改めてそういわれると、正直心が傷ついた。



「(…ちょっとでも肯定してほしかったなあ)」

そんなことをぼやぼやと考えていると、頬にぴたりと冷たいものがくっついて体がビクンとはねた。

「ひぎゃっ!」

「……ひぎゃって。呼びかけてもぼーっとしとるからや」

ユウジはそういいながら私の隣に腰かけた。
……マイワールドに入ってしまっていたのか、私。恥ずかしすぎる。



「…すみません、ありがとうございます。」

「なんやねん、急に敬語になって。きしょいわ」

「きしょいって何じゃい。このやろー。」

「………ふん、変な花子」

「……うん。」

「……って何泣いとんねん!意味わからん…」

ペットボトルを持つ手にポタポタと落ちる雫。
…何で泣いてるんだろう。自分でもよく分からない。


「なんや、しんどいんか?それとも、俺のせい?」

「いや…違う違う、そういうのじゃなくて」

私は涙をゴシゴシとこすった。
…あぁぁダサいなあ、今すぐ地面に穴ほって埋まりたい。って、これに似た台詞何回いったっけ。

ユウジは困った様子で、私の顔色を伺っている。


「……朝プロレスの技かけたから腰いたなった?」

「何で今痛くなんの。」

――痛いのは腰じゃない。
心だ。チクチクして、痛い。

ユウジの顔を見ると張り裂けそうになる。



「…なんか、泣きたい気分になっただけ。」

「――……そっか。」

そういうと、ユウジが私の頭を優しく撫でた。


「……っ、え…」

「な…なんやねん、ええやろ。
 お前が泣きたい気分なったみたいに、俺も頭なでてやりたい気分になっただけや!」

チラリとユウジのほうを見ると、顔を赤くしていた。



…嫌いになれたらどんなに楽なんだろうか。





「(ユウジは残酷なほどに優しい。)」


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