ちゅちゅんっ。
小鳥の可愛らしいさえずりで、目が覚めた。
ううーん…今何時だろう?
寝ぼけ眼で目をこすりこすり、起きてみると財前と謙也はまだ寝ているみたいで、私が起きたことにより(?)ユウジもあくびをしながらうっすらと目を開けた。
「…おはよう、ユウジ」
「あ…おん、おはよ…」
昨日の幼児化が夢だったらよかったのに。…はぁ、やっぱりこれは現実なんだなあ。
ふたりでーと
「では、いってらっしゃいませ」
「はい、いってきまーす」
「おおきに、女将さん」
そういうと、私とユウジは子供達を女将さんたちに任せてデート…という名の観光地スポット巡りをすることにした。
いや、まあお泊りにきたけど練習はできないからね。
どうしようもないよ。
…まあ、一応今日のスポット巡りをし終えた後に私とユウジはテニスをする予定でいる。
普段みんなのを遠くから見てるくらいだったから、
実際自分でやると思うとてんぱりそうで不安だ。
「…おら、何しとんねん。ぼーっとしとったら置いてくど。」
「あー、はいはい」
そういって私は先を歩いていくユウジの一歩後ろをついていく。
歩幅があまり大きくない私に合わせて、
ユウジはゆっくりと歩いてくれた。
…そのことがなんだか嬉しくて思わずはにかんでしまう。
「…何わらっとんねん。きしょいわ。」
「ユウジうざい。」
「……っふん。」
…女将さん情報なのだが、
幼児化は本物のマツタケを食べれば元に戻るらしい。
…っていっても、今マツタケのシーズンじゃないしなあ。
その前にこの近辺にお店がないから困る。
…もやしで元に戻ってくれないかなあ。
「花子、バスのるで」
「あ、うん」
いわれるがままにバスにのると、
隣に座りあって外の景色を見た。
…こんな近くにユウジがいるって、新鮮。
普段は嫌でも小春のそばから離れようとしないもんなあ。
…これでちょっとは小春離れできたらいいんだけど。
「…あいつら、大丈夫やろか。」
「……あはは、心配なんだね。」
「当たり前やろ。あいつらにお世話される身にもなってみ。
体壊れるわ、これ冗談ぬきに。」
――経験者は語るてきな感じで、
ユウジがぼやいている。
…確かに普段のあいつらを見てる限り、超疲れるもんなあ。
「…なんかさ、」
「ん?」
「…部活ぬきで、こうやってユウジと一緒にいるのって初めてだね。」
「………なんやねん、急に改まって…」
そういってユウジが変なものを見るような目で私を見てきた。
悪いな、変なこといって!
「いや、だって二人っきりってまずならなかったでしょ、今まで」
「そうか?」
「そうでしょ。ユウジ小春にべたべただしね」
「ええやろ」
「悪い意味でね。」
そういうと、ユウジがどういう意味やねん!とつっこんできた。
…いや、まあそういう意味です。
お前らラブルスの扱いが最初本当難しかったんだからな!
今じゃあ猛獣使いならぬラブルス使いとよばれるまで進化したけど。
「…あ、ついたよ」
「あ、ほんまや。」
バスから降りると広々とした田舎のような風景が広がった。
周り一面田んぼ田んぼ田んぼ。
生い茂った草に、蝉の鳴き声、
それに少し古くなった木の家々。
「…これじゃあ、スーパーとかはなさそうだね。」
「……せやな。マツタケ狩りでもするか?」
「遠慮します。ユウジまで子供になっちゃったら私泣くよ?」
そういうと、ユウジがあははと笑って冗談や、と言った。
…冗談は顔だけにしてくれ。
「…で、どこいこっか。」
「んー…まあ自然と戯れるか。」
「え、ユウジ自然好きなの?」
「え、お前何その人を疑う目。殴ってええか?」
「嘘です嘘です。」
いやいや…まさかユウジから"自然"という言葉がでてくるとは。
なんかユウジが自然破壊してるイメージがあったから、違和感がある。
…なんていったら真面目にユウジに殴られるんで言わないけど。
「あ、あこに川あるで」
「川?…私らの学校の近くの川よりだいぶ小さいね」
「当たり前やん」
そういうと、ユウジは急に靴下をぬぎだした。
「…え、何してんの」
「え?水遊びやろ」
「ええええええ、ちょ」
そんなことをいっている間にユウジは川へ足をつからせていた。
ドポンッ!
膝下くらいの水の量なので、とりあえず川に流されておさらばになるほどではないらしい。
それに川の流れの早さもだいぶゆったりしてるしね。
「おーい!花子もこいや!」
「えー」
「『えー』ってなんやねん、はよこんと川に沈めるで!」
それはガチで困る。
私も急いで靴下を脱いで、ドポンと川に足をつからせた。
「…うぅぅ、冷たい」
「アホ、こんなんで冷たがってどないすんねん」
「いやでも――」
そんなことを言っていると、ユウジがぐいっと腕を引っ張ってきたせいで私は足をすべらせて川へとダイブしたのだった。
バシャッ!
「……ぐはっ!って、何すんの?!」
「っぶ、ひっどい顔」
「え、何で今私顔を侮辱されたんだろ。
くっそー、仕返し!」
そういって私もユウジの腕をぐいっと引っ張ると、バランスを崩したユウジが「うぉお?!」と声をあげながら川へダイブした。
…お互い全身びしょ濡れ。
「こうなったらもうヤケクソや、いくで花子!」
「おう!…って、あんたなんで水鉄砲所持してんの?!
意味わかんな…って、ぎゃあぁぁ!かけるなああぁぁぁ!」
水鉄砲をかけられて慌てふためく私を見て笑うユウジ。
――…こいつ、鬼だ。
「この、仕返しだ!」
「おわあ、何すんねん!」
水鉄砲をとろうとした瞬間に、
瞬時にユウジがそれをかわし、私は態勢をくずしてそのままユウジにダイブした。
「「ぎゃあ!」」
二人同時に悲鳴をあげ、川へ落ちる。
「……っ、」
「うわあ!ごめんごめんごめん」
気がつけば、私がユウジに馬乗りしていた。
これは誤解をまねくポーズじゃないか…!
慌てて私がどくと、ユウジが下を向いたまんま動かない。
「……ユウジ?怒った?」
「………」
「えちょ、ユウジ?」
そういってユウジの顔をうかがおうとした瞬間――。
ピュッ!
「ぎゃああああ!」
「っぶ、ひっかかるとかほんま花子アホやあ。」
顔面に水鉄砲をかけられた。
…まあ、ずぶぬれだから今更どこを水かけられても困りはしないけどね。
「(あかん、花子にドキドキしたなんて絶対言えん)」
…こんな男より男勝りしとる女にときめいたなんて、
絶対認めんからな。