「じゃあ、子供達のおもりはユウジに任せた」
「任せんな」
「あはは。じゃあ頑張りたまえ、私は自分の部屋で寝てるから何かあったらきてね」
そうはいったものの、
――30分もたってないのに何故ユウジが部屋にきたんだ。
気の迷い
私はぼーっとしながら今日一日のことを振り返っていた。
…四天のメンバーが子供に戻るとは。
不幸中の幸いか、ユウジが残ってくれただけありがたいんだけども。
そんなユウジは子供が苦手だし。
――んでお風呂場ではたまたま居合わせちゃって、
ユウジの本音も少し聞けたような気もする。
「(…まあ、疲れたし寝よう)」
床にしかれた布団に大の字に寝転がってそっと目蓋を閉じた瞬間だった――。
ガチャッ!
ドタドタドタッ!
「俺もう無理!」
「……はい?」
ユウジが半泣きになって部屋にかけこんできた。
…よく見ると、ユウジの脇には謙也と財前が抱えられている。
またお前らか。この問題児たちめ。
「…謙也と財前がどうかしたの?」
「もうこっちは悲惨やで!
まず財前がいつまでたっても寝てくれんのや、可愛い可愛い小春は寝てもうてて、『うるさくしたらぼこるわよ?』っていってきてんけど、」
「(小春しっかりしてるなあ)う、うん。」
「んで財前寝かせたろー思って童話を話してやっとったんや。
えーっと…シンデレラ?」
「(めっちゃ女の子むけじゃん。)」
「そんだらな、『めっちゃおもんない。』っていってダダこねはじめるんや!」
「はぁ。」
「で、困りにこまっとったら今度は隣の部屋から泣き声が聞こえてくるんや」
「うん。」
「で、見に行ったら謙也が『おかあさんにあいたい、うああぁぁぁん!』言うて泣いとって、こまっとったら今度は隣の隣の部屋から悲鳴が聞こえてきたんや!」
「………うん。」
ここまで聞いてて、なんだかユウジに同情してしまう。
まだ話しに続きがあるのかと思ったら、私ユウジに大きな拍手をあげたい。
お前は頑張ったよ、ユウジ!うん!
「んだらな、白石たちの部屋いったら、
寝ぼけた金ちゃんに千歳がコブラツイストかけられとったんや。」
「………。」
「『何やこのgdgdなんわ?!花子にヘルプだすしかない!』思って今に至るんや」
「じゃあ、その両脇に抱えられているボーイズたちは何?」
「とりあえずめんどいやつ持ってきた。」
…いやいや、厳選して持ってくんなし。
二人はユウジにおろされると、
可愛らしく私のもとへ歩み寄って抱きついてきた。
「ぐぇっ」
「花子さん、ユウジさんのはなしおもんなーいっ」
「なんやとー?!ほんまクソガキやなあ」
「花子、いつになったらおかんにあえる?」
「んー、まあ後6日後くらいじゃないかな」
「うぅー、おれそんなまっとれん、」
そういって謙也がぐずって私の洋服のすそをつかんで泣き出した。
…おぉー、よしよし謙也、お前さっきから泣いてばっかだなあ。
謙也のおかんも相当手を妬いたんだなあ、と思うとなんだか愛くるしい気持ちになってくる。
「花子さん、花子さん」
「ん?」
「なんかおはなしききたい」
「…え、」
え、え、どうしよう。
男の子向けの童話かあ…なんかあったかなあ。
「え、えーっと…じゃあ桃太郎にしようか」
「ももたろー?」
「(よし、知らないみたいね)そう、桃太郎。
謙也もきくでしょ?」
「おん!」
とりあえず、ベッドに財前と謙也を寝かせる。
ふと、ぼーっとしているユウジに気がついた。
「ユウジはどうする?」
「え?あー……おん」
「…別に暇なら一緒に話ししてあげようよ。
桃太郎、ユウジ知ってるでしょ?」
「そりゃあな」
「なら決定。
はいはい、ベッドに入った入ったー」
そういって、私たちは布団に川の字になって寝た。
左から私、財前、謙也、ユウジなのだが。
早くも問題が勃発した。
「わああぁぁあぁぁん!この兄ちゃん、おれのこと殺そうとしとるー!」
「っは?!ななななんでやねん!」
「……アハハ。ユウジ目つきが怖いからじゃない?
謙也、大丈夫だよ。ユウジは謙也のこと殺そうとしないから」
「……ほんまにぃ?」
そういってウルウルな瞳でこっちを見てくる謙也。
か…かあわいいなあ、お前!
「ほんまほんま。」
「ならよかった!はよ、ももたろーききたーい!」
「はいはい。」
私は一息つくと桃太郎を話し始める。
「むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは川へ洗濯に、
おばあさんは山へ芝刈りにいきました。」
「花子、間違えとるで。おじいさんとおばあさん逆や!(ボソッ」
「(あ、本当だ!)ごめん、今のなし!
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。」
そういって慌てて言いなおすとみんなが爆笑をしていた。
――その時のユウジのにっこり笑顔に、
なんだか胸がきゅんってしてしまう。
「(って、きゅんってなんだ自分…っ)」
「花子さん、はなしまだあ?」
「あ、ごごごごめん!
えっと、それでね、おばあさんが川で洗濯をしていたら――」
そんな感じで話しは盛り上がりながら最後までを終えた。
最後を言い終えた頃には、子供達はもうウトウトと寝そうなころで、
私とユウジはその光景を見てぷっと笑った。
「……こうして見たら、財前も可愛いね。」
「普段は生意気やけどな。」
「あはは。」
…なんかこの雰囲気ってさ。
「…私達、家族みたいだね」
「………っは?」
「あ――。い、いや!そういうわけじゃなくって!」
慌てて言い直そうとするが、時すでにおそし。
家族ってなんだ家族って…!
そしたら私がお母さんでユウジがお父さん?
いやいや、え、ちょ待って…!
もっかいこの話し切り出す前に戻りたい!時間よ、かむばーっく!
慌てて顔を真っ赤にしている私同様に、
ユウジも何故だか顔を真っ赤にほてらしてユデダコみたいになっていた。
「……何顔真っ赤にしとんねん」
「…いや、そういうユウジも顔赤いけど。」
「こ…これはなあ!日焼けや、日焼けぇ!」
日焼けって…。別にユウジ、白石みたいに白いわけじゃないんだから日焼けは通用しないよ…。
なんて思いながらも、心のどこかでは安心感もあった。
「(恥ずかしがったのは自分だけじゃないのかもしれない。)」
少なくとも、ユウジも顔真っ赤にしたっていうことは恥ずかしかったんだろうなあ。
…ユウジって、なんだか分かりにくいようで分かりやすい。
普段はウザイほどツンケンして、きもいだの馬鹿だの散々ののしってくるけど。
「(…ユウジのこと、好きだなあ。)」
なんてぽわんと思って慌てて頭を振り切った。
す……すき?!アホか!
自分今すぐ穴があったら入りたい!
「……何しとるん?」
「え?何が?」
「顔ニヤニヤしとったで。マジきもいわ。」
「ユウジうざいよ、ユウジ。」
やっぱこんなやつ好きじゃないや。
ただの一時の気の迷いだったんだな、あはは。