それから最終日まであっという間だった。
「(このままずっと合宿がいいなー…。)」
なんて思ったりもする。…ユウジと長くいられるし。
けどそういうわけにもいかないんだよね。
「(今日で最後。明日帰るんだ。)」
最終日
〜〜♪
いきなりかかってくる電話。誰だろ…?そう思い携帯のディスプレイを見ると、【一氏ユウジ】という文字が。
私は慌てて携帯を開くと通話ボタンを押した。
「ははははい!」
『…っぷ、何そんな慌てとんねん。』
「いや…いきなりの電話にびっくりして」
『…まあ、なんや。今からテニスコートこれるか?』
「あ…うん、いけるけど。」
『ならまっとるで』
そういってぴっと電話をきられた。…これって、ユウジからのお誘い?!
きゃーきゃー!
「……リップおっけー、爪おっけー、マスカラおっけー、シャドーおっけー」
よし!準備万端だ、いざ出陣!
ガチャッ。
「おー、花子やん。…って、何でそないに気張ってんねん」
「なんだ謙也か。お前には分からないことだ。」
「意味わからん。…あー、もしかして!はぁーほおー」
「……そういうわけです。では!」
「はいはい、いってきー」
謙也にヒラヒラと手をふってから私はテニスコートへ急ぎ足で向かう。あー、ドキドキしてきた!
「(…花子もユウジも、ええなあ。)」
はぁー、俺はいつになったら彼女ができるっちゅー話しやねん。
.
..
...
「ユウジ、きたよ」
「お、花子。…ちょっと山のほういくけど、ええか?」
「あ…うん」
そう答えると、ユウジがさっと私の手を引いて歩いた。…なんだろ。どこ行くんだろ。
「…今日で最後やん」
「うん…」
「せやから、花子にどうしても見せたい思って」
「……何を?」
「それは、まあ見てからのお楽しみや。」
「まさかマツタケとか言わないよね?」
「誰がそんな雰囲気ぶち壊しにすんもん見せんねん。アホか。」
そういって、ユウジが私の頭をコツンと殴った。…全然痛くない。
「……お、ついたで」
「……っ!」
着いた場所は――。
「蛍…?すごーい!凄い凄い!」
「ははは、俺もついこの間見つけてんけど、なんや蛍の光がここら辺に集中してあんねん。…不思議な光景やなあ。」
まばゆいほどの蛍が、草の上をチカチカと飛んでいる。…凄い、綺麗。こんなにたくさん蛍を見るのって初めて。
「……凄い、」
「……こんな光りが冬には見れんって、なんか儚いよな」
「そう…だね。」
今だけしか見れないんだなーって思うと変な気持ちになる。
「――また、見にこれたらええなあ。」
「…っぷ。今度は2人きりできたいね。」
「おー、ええなあそれ。新婚旅行的な感覚できたいなあ。」
そんなことを2人で話していると、だんだんユウジの顔が近づいてきて。
「……キス、してもええ?」
「今更確認とるの?」
「え…ええやん!や、やっぱちょっと不安やねん…」
ぷっと笑うと、ユウジが顔を赤くして「笑うな!」という。そんなユウジが愛しくて愛しくて、これからもずっと2人、離れずに一緒にいれることを強く願った。
「(こんなにも愛しい人に出会えたのって、奇跡だよね。)」
私がそっと目を閉じると、唇に柔らかい感触があたる。
――ユウジはそれ以上のことをしようとはしてこない。
だけど、そこがまたいいのかもしれない。
…少し純情な彼の、そこが私は好きだ。
「……さて、戻ろか。明日ははよ起きて練習してから帰るしな。」
「そうだね。……ユウジ、頑張ってね。」
「………おん!」
マツタケに似たキノコから始まった物語が、
私とユウジをくっつけるなんて誰が思ったのだろう?
――…けれど、今ではあの災難なキノコに感謝もしている。
「(神様仏様キノコ様、ありがとうございまっす…!)」
あれはある意味神様からのプレゼントだったのかもしれない。
今になってはそう思ったりもする。