「はぁー、買った買った」
「後は帰るだけやな」
「…そうだね」
帰ったらみんな元に戻っちゃうのかぁ…。いや、これは私が望んでいたことだ。みんなが一刻も早く元に戻ること。
だけど…。
「(ユウジと2人きりは、これで最後なんだろうなぁ。)」
そう思うと悲しくなった。
キス
「…なぁ」
「ん?」
「これで…俺ら、2人になんの最後やな。」
「……だね。」
私が思ったことをユウジが口にして、思わずドキリとした。
…これで最後。
「…ガキのおもりせんでええ思ったらせいせいするわ!」
「あはは。何だかんだでユウジ楽しそうだったじゃん」
「んなことないで。白石とか白石とか白石とか何回どついたろと思ったことか」
「だって白石だもん。そこは仕方がないよ」
あれは救いようがない。
「……はは、まあ楽しかったかもしれんなあ。ガキのおもりも。」
「…ユウジ、成長したね。」
「当たり前や、俺にも学習能力ぐらいあるわ」
「え?そんなのあったの?」
「顔面殴ってええ?」
「うそうそ。あはは……」
そういって力なく笑うと、ユウジがちらりとこちらを見てまた前を見た。
「……なんや、言いたいことあるんやろ、どうせ。」
「え?」
「…はよ言えや。聞いたるから」
…なんでユウジは分かってくれるんだろうか。
あー、なんかまた涙でそうになる。
「あぁ――もう、馬鹿やなっ」
そういってユウジに腕をぐっと引っ張られそのまま胸に抱きしめられた。
あ…やばい、まばたきしたら涙が…。
ポロッ。
「…俺見とらんから、好きなだけ泣けばええやん」
「…うぅ、」
「あーあー。もー…お前も謙也なみの泣き虫やなあ。」
そういってユウジのからかう声が頭上から聞こえてきたが、私はそれにおかまいなしでユウジのシャツにすがりついた。ぐしゃぐしゃにぬれたシャツ。…ごめん、ユウジ。泣いたりなんかして、ごめん。
「Tシャツ代5000円やで」
「…お金とるつもりか、詐欺師め」
「ははは。どこぞのペテンと一緒にすんなや」
泣き止んだ私は、チラリと上を見るとユウジと目があった。
…好きなんだよ、そういう優しさも、全部全部。
こういうことがなければきっと、私はユウジの優しさに気づかなかったかもしれない。
恋をしてなかったかもしれない。
「…なぁ、花子」
「……んっ」
「お前…ほんまずるいわ、」
そういってユウジがそっと私の頬にふれた。
「………俺の心ぐしゃぐしゃにかき乱して、せこい」
そういうと、私の唇に暖かい何かが触れた――。
それが何か気づくまでに、少し時間がかかって。
「――…っ!」
「…何変顔しとんねん。ほら、いくで」
そういって繋いだ手と手が、いつまでも離れないことを私は強く願った。
「(今のって…キス?え?ええええええ?!)」
「(あかん、やってもーた…っ。花子の顔見れへんわ…。)」